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第07話 ゆずれない想い


『私達は友達にはなれない』

ケンにとっては受け入れがたい言葉である。

『ぜったい違う』と思わず叫びそうになるが、ノッコの悲しげな雰囲気を感じてその言葉を飲み込む。

友達の悲しみは自分の悲しみだと、彼は幼い思考でそう考えている。

でも、どうしたらいいか解らないので、そのままベットの上に腰掛け、黙ったまま彼女の話を聞く事にする。

ノッコは部屋の隅にある彼女の体に合った妙に足の短い、長い背もたれを持つ椅子を魔術で引き寄せると、背を持たれかけるように座り、その理由を説明し始める。


「ケン君は、ステラ村に住んでいるんでしょ? 私達水精族は、村の人と仲良くして無いのよ。ステラ村だけじゃなく、人間族の国や獣人族全員とだけど」

「どうして? 何かひどいことされたの?」

「もう、ずっとずーっと昔にされたの」

「怒ってるの?」

「いいえ、怒ってないわ。だけど私達は、他の種族を信用できないの」

「怒ってないのに、友達にならないの? 話をしないの? よくわかんない」

「そっか、わかんないか。そうでしょうね」


それから彼女は、少し長い話をする。

水精族は、水の中で進化した種族で、強い太陽の光が苦手であり、昼間は外を出歩けない事。

固有魔術を持っており、水の中であれば、テレパシーのように意思の疎通が出来る事。

そして、その固有魔術を使うと、自身より相当魔力値が低い相手ならば、接触さえすれば無理矢理でもその考えが読めてしまう事。

もちろんその力を制御は出来て、他種族相手に使う事はめったになかったのだが、夜にしか現れない水精族は以前は水妖魔と呼ばれ、人の心を読む化け物とされ、獣人達から恐れられていた事。

その後、獣人達の国が大きくなると、迫害され、住処を追われ、獣のように殺され、あるいは利用され、絶滅の危機に瀕した事。

その後、人間族の国に保護されたが、戦争時代はやはり利用された事。

その見返りに、このコミューンの独立所有権を手に入れ、人間族国家との不可侵条約を結んだ事。

それが彼らにとっては、わずか120年ほど前である事。

そう言う事情もあり、多くの住民が他種族を信じていないという事だった。


一通りの事情を聞き終わると、ケンは悲しそうな顔でノッコに質問する。

「僕のことも信用できないの? 僕は、気持ちを読まれたってヘイチャラさ」

彼女は、幼い子に諭すように説明する。

「ケン君は、お父さんやお母さんに内緒にしておきたい事はある?」

「…ある」

それはいっぱいある、と言うよりあり過ぎる。

「じゃあ私が、それをばらすと言ったらどうする?」

「…困る。でも、ノッコお姉さんは、ばらさないよね?」

彼女はクスッと笑う。

「もちろんばらさない。でもね、世の中には悪い人がいるの。ケン君の秘密を知りたい悪い人は、例えば私を脅かして無理矢理聞きだそうとするかもしれない。そんな悪い人がいっぱいいたら、自分の秘密が何時ばれるかと思って夜も寝られない。そういう場合、一番簡単な方法はお姉さん達を殺す事よ」

驚きあわてて、ケンは立ち上がる。


「僕、お姉さんを殺さないよ!」

彼女の腕がシュルシュル伸びて、ケンの肩を優しくつかむとベットに座らせる。

「落ち着いて、ケン君。あなたがそんな事しないのは解ってるわ」

涙目になりながら、ケンはノッコの言った話を考える。

そもそも自分が悪いのに、ばらされたら困るからと言って、悪くも無いノッコを殺すなんて考えられない。

世の中には、そんな悪い人がたくさんいるのだろうか?

少なくてもステラ村にはいないと思う。

しかし、ふと考える。


(いるかもしれない、僕の見てる昼間の夢が本当なら)

彼は前世の断片的な記憶を夢か電波かと思っているが、もしかして本当に前世の記憶かも知れないとも思っていた。

ゾンメル教の教会に週に一度家族で行き、調停者様(文末参照)の話を聞いていた彼は、意味不明な映画の様な夢は、生まれる前の記憶じゃないかと空想していた。

あまりにもリアルな部分があったから。


日本と呼ばれるその世界では、悪い人はたくさんいた。

自分が死にたいから、子供をたくさん殺す人もいた。

人をだましたり殺したりして、お金を取る人がいた。

テレビのニュースを信じるなら、世界では戦争があり、宗教で殺し合う人がいて、殺したいから殺す人もいたと思う。


ケンは、この世界の事をまだよく知らない。

でも、この国でも昔は戦争をしていた事はステラ学園の授業で知っていた。

ならば、信じたくはないがこの世界にも悪人はいるのだろう。

何より、目の前の彼女がそう言っているのだから。


幼い思考を持つ悪ガキのケンだが、人が悲しむ悪戯だけはやっていなかった。

…と思う。

結果的に迷惑をかけて悲しませても、あくまで目的は楽しむ事。

村のみんなが悲しんだら、自分まで悲しいのだから。


ケンの肩をつかんだままだったノッコは手を放し、シュルシュル縮めてから話しかける。

「ケン君、あなたの考えは興味深いわね。…御免ね、解りやすく伝えようと思って、あなたの思考を読んだわ。どう? 気を悪くした?」

「全然平気だよ」

「そう言うと思ったわ。でも、前世の記憶か…。そんな特殊なケースに出会うなんて。…しかもケン君で2人目。一体どういう事かしら?」

聞き逃せない言葉を聞いたと、ケンは子供ながらも直感した。


「2人目? 僕の他にもへんてこな人がいるんですか?」

ノッコはしばらく黙っている。

見た目からは解らないが、思案しているのかもしれない。

「ケン君には知る権利があるかもしれないわね。そもそも、あなたが此処に居るのは、その男と無関係ではないのだから」


意味が解らなかったので、ケンは困惑する。

(僕、今までへんてこな男になんて会ってないのに)

彼女は、その様子を見て丁寧に話してくれる。


「本当はね、君を助けた時に治療した後、川べりに結界を作ってその中に置いて来るつもりだったの。でも、そんなの危ないじゃない? だから、ここに連れて帰って来たんだけど、彼に会う前だったらそんなことしなかったと思うわ。彼も人間族だったから」

「僕の知っている人ですか?」

興味津々で質問するケン。

自分一人が選ばれし勇者ではないとはっきりすれば、世界の敵と戦う必要はないかもしれない。

それは少し残念だったが、特別でない自分を認めるのは少し気持ちが良かった。

その男の人も前世の記憶で辛い気持ちを持っているなら、友達になれるかもしれない。


「ケン君は子供でしょ? その人は外国から来た大人の人間族の男よ。多分知らないんじゃないかな?」

すごくがっかりしたが、もしかしたら出会えるかもしれない。


「その人の事を教えてください!」

その言葉に、どうやら肯定のしぐさ、鼻をピクリと動かした後にノッコは話し出す。

「2ヶ月くらい前だったかしら。彼が突然ここを訪ねて来たの。どうしてこの場所が解ったかを聞くと、私達の事をこの国の図書館で調べて、おおよその場所を特定して、禁域(このコミューンがある水精族が独立所有権も持つ山脈の一部)の事を人から聞いて、更に探査魔術で山の中に空洞を見つけて、川につながる地中水路から来たって言うのよ。信じられなかったわ」

「それって、すごいんですか?」

ケンの素朴な疑問に、何だか興奮したように足をチョコチョコ動かすノッコ。


「すごいってもんじゃないわよ。そんなの私達でも無理。ここは厚い岩盤に囲まれた場所なのよ。私も初めて見たけど思考念波の使い手ってこと。まあ、解らないでしょうから話を進めるわ」

本当に解らなかったケンは、ただ頷くのみだ。

「彼はここに来た目的が私達の固有魔術にあると言ったわ。魔術を解析して、魔道具を造りたいって。そんなの当然断るわ、だって普通、悪用しか考えられないから」

「心を読むのは、そんなに悪いんですか?」

「私はそう思う。君も大人になれば解ると思う。でも、彼の目的は心を読むのではなく、思考を制御する術を手に入れる事だった。大切な人の心のくさびを引き抜くためにね」

ノッコは、背もたれに体重を預ける。

長い背もたれが、ギシリと音を立てる。


「始めは信じられなかった。だから彼の心を読もうとしたの。でも、彼の魔力値が高すぎて読めなかった。今までそんな人間族はいなかったから焦ったわ。私達の魔力値は6000近くあるから5000以上ないとそんな事は起らないの。だから、彼は口で説明するしかなかった。『心が読めない人は信じられない』とか『人間族に教えるのは無理だ』と言った私達に『心が読めなくても、種族が違っていても、それでも必ず想いは伝わると信じている』って言って、彼は何度も何度も説明したわ。後で解ったんだけど、彼の言う事に嘘は一つも無かった。(文末参照) 悪用するつもりも、成果を公表して社会的地位を高める気も無かった。ただ、最愛の人を助けたいだけ。しかもその女性は、私達と同様に利用されていたの。心を読めるからという理由で、人間族の貴族達(この場合警察組織)によって辛い役目を余儀なくされていたそうなの。…まるで嘘発見器のようにね。今でもそのトラウマを抱えているそうよ」

ここで彼女は一つ溜息をつく。

自らを責めるように小さな瞳が揺れる。


「でも私達は信じられなかった。始めは完全に無視していた。それでもあきらめない彼を見て、何か裏があるんじゃないかと思って、ひどい事を言ったりしたし、無理矢理追い出そうとした。彼の心の中には、私達に対する偏見も誤解も無かったのに…」

彼女の様子を見て、少し悲しくなったケンは慰める。

「お姉さん辛いの? でも、ひどい目に遭ったら、ちょっとくらい悪くなるのは当たり前だって、父さんが言ってたよ」

彼女はフフッと笑い、元気な声で彼の気遣いを褒める。

「あなたは本当に優しい子ね。やっぱり私の考えは間違ってなかったと自信が持てたわ」

ケンも少し嬉しくなり、エヘヘと笑う。


彼女は再び話し始める。

ゆっくりと幸せを噛みしめるように。

「彼はね、絶対あきらめなかった。2週間くらい此処に泊りこんで、必死に説得して回っていたの。彼くらいの力があれば、無理矢理私達を従わせる事も出来たでしょうに。その姿を見て、そのうち私達は少し考えを改めた。何人かが彼に協力して、魔道具は完成した。それが、今から一月前ほどの事よ」

「すごい人だね。魔道具を造っちゃったんだ」

「ええ、だからね、私達は人間族全てに絶望しない事にしたの。彼は、私達の友達よ」

「僕も友達だよ」


ノッコは、全てを達観したような声色で、純粋な子供に説明する。

「ケン君、あなたはどうしようもないくらい、まだ子供なの。もし本当に私達と友達になりたいのなら、大人になって尋ねて来なさい。私達の姿や心を読まれる事を恐れず、深い水底を越える勇気と覚悟があるなら」


ケンに、彼女の真意は完全に伝わらない。

それでも彼には、ゆずれない想いはあった。

「うん、僕もその人に負けない大人になりたい。ノッコお姉さんと友達になりたいから」

彼女は笑うと、腕を伸ばしてケンの頭を優しくなでた。


「私の友達の名前は、ヨシト=ウッドヤット。あなたと同じく前世の記憶を持つ人間族の男よ。もし、数奇な運命が巡り合うなら、みんなで友達になれるかもしれないわね」



設定および解説

この世界の現在、元作の主人公ヨシト=ウッドヤットが大人になって存在しています。

今の所、彼が何歳かは明記しませんが、まだ若いとだけ書いておきます。

ノッコ達が彼の言う事に嘘が無いと後で解ったのは、固有魔術を解析したヨシトが、彼女らと心を通わす事に成功したからです。

固有魔術を他種族が使うことなど、普通は出来ません。

彼の場合も魔道具の力を借りて、擬似的に再現しただけです。


ゾンメル教についての補足

日々の生活も戦いであり、修行であるので努力をする事が大事だとされている。

だが、もちろんそれだけでは解決しない問題がある。

特に、人間関係のトラブルや法に明記されない問題について、戦いを積極的に肯定する宗教だから、お互いの同意があれば『決闘』や『討論』が認められている。

特に信者同士であるなら、その決定は絶対である。

これは、女神様にささげる神聖な儀式とされる。

戦闘だけに限らず、様々な分野において戦いや話し合いが認められているが、信者以外が絡むと、法に優先する物では無い。

しかし、積極的に教義に沿った法の改正を行う働きかけをする宗教でもある。

『決闘』が戦闘の場合でも、あくまでもお互いを切磋琢磨させる事を目的にしているので、殺し合いの様なものでなく試合であり、命をかけるような事はしない。

くじ引きで決めるなんて例もたくさんある。

ゾンメル教の聖職者は、まずは調停し、不調な場合は戦いを認め、そのルールを決め、審判までする。

彼らは、決闘や討論に不正があった場合、全ての責任を負う重要な役目を持つ。

特に獣人族の国では、紛争トラブルにはゾンメル教の聖職者が必ず登場し、非常に地位が高い。

始祖である『託宣』ギフト持ちが、人間族と獣人族国家の間に緩衝地帯を設け、戦争を終結させたため、獣人国ではミリア教より信仰されている三大宗教の一つである。

その位は、超越者>審判者>調停者>仲介者>修行者で、調停者と呼ばれる人は、ミリア教で言う司祭に相当する。

ちなみに、教祖様が亡くなった後、最高位である超越者は空位であり、審判者達が代行している。

それぞれの間に代行が付く役職も存在する。

例えば審判者代行は、審判者と調停者の中間職である。

仲介者で一人前とされる。

教会では週に一回礼拝が行われ、その時に教義に対する説明会が開かれる。

輪廻転生を否定してはいないが、それに期待せず修行する事こそ大事であり、結果的に現世でも来世でも神の国でも幸せになれるという宗教である。

己の幸せと大事な人達のために、頭をクールに、心は熱く戦えという教義だが、人の道を踏み外す行為だけは厳しく禁じている。

戦う勇者こそ誰よりも崇高であれと言う事だ。



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