ほんとうのJoker②
そんなウィルターはローエン家の事情に精通していた。むろんシェリのこともよく知っている。
「はい。大好きです。」
ライラシアはその言葉を噛みしめるように答えた。
「素敵な侍女なのねぇ。」
王妃はそんなライラシアの様子をみて微笑む。
「でも奴隷だったって話ですわ。」
「シェリは奴隷ではありませんっ!」
どこからともなく聞こえた罵声にライラシアは立ち上がって抗議する。
しんと静まり帰った周囲に気づいて、思わず荒げてしまった声にライラシアはかぁと顔が赤くなった。
「お騒がせしてしまい、すみません。」
抗議の声を上げたことは決して恥ずかしいことではない。しかし大声を上げたのはレディとしてはしたないことだ。
今にも泣きそうなライラシアの頬を一撫でし、ゆったりと王妃が話し始める。
「奴隷制度は早いうちになんとかしなければと夫とも話していますのよ。」
困ったわ。とでもいうようにため息をつきながら王妃は首をかしげた。
「私たちが貴族であるがゆえに貴族としての役割を背負っていることはわかってますけど、それにしたって奴隷制度は許されるものではないでしょう?人を人が好きにしていいなんてことがまかり通っていいものではありませんわ。ねぇ皆さんもそう思うでしょう?」
王妃は問いかけつつも、有無をいわさぬ笑みを浮かべる。
案の定、茶会に出席した貴族たちは冷や汗を浮かべながら、王妃の意見に同意した。
ライラシアが王妃を見つめると、王妃はいたずらが成功したかのようにウィンクをしてみせた。
「いつか貴方が王妃になった時、その侍女さんも王宮にあがれるといいわねぇ。」
そう優しく語る王妃にライラシアは涙を浮かべながらうなずいた。
王妃には3人の王子がいる。将来王になる権利を持つ男児が生まれることは王家にとってはとても喜ばしいことだ。しかしながら3番目の王子が生まれた時、王妃は「もう男はイヤっ!!」と叫んだとか叫ばなかったとか・・・。
故にかこの王太子のお妃最有力候補として育てられているライラシアをベッタベタに溺愛している。
奴隷制度ももしかしたら本当になくなるかもしれないとその場にいた貴族は皆思った。
この王妃はライラシアに気に入られるためだったらなんでもしでかすのだ。