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第六十話 大将戦、フローチェ対魔王②

 魔王さんの第二段階、私の相撲スピリッツLv.2が拮抗している。

 お互い技を掛け合いすかしあう。

 お互いの力の重心が左右に振れながら動くのが解る。


 先読みをする。

 フェイント。

 引っかけあい。

 高次の読み合いが発生し、感と本能が敵の動きを阻害し、自分の動きを通そうとする。


 息が上がり始める。

 体温が上がる。


 崖っぷちを歩くような緊張感。

 一歩間違えば真っ逆さまに落ちそうだわ。

 ここまで高度な競り合いは初めてだ。

 ぎりぎりと心が絞られるような恐怖感がある。


 でも、楽しい。

 初めての領域で心は怯えながら弾んでもいる。


「すごいわね、ここまで競り合った事は無いわ」

「俺モダ」


 投げを打つ、すかされ返し手で振り回されて踏ん張る。

 掛け技。

 ひねり技。

 足を掬おうとし、腕を極める。

 大量の技のきっかけだけが超高速で走り、消えて行く。

 アリアカでの大相撲興行なら、一発で勝負が決まるような技が、きっかけだけで消えて行く。

 それは大量なあぶくのようで、夏のサイダーみたいにパチパチと弾けて消える。


 なんて贅沢な相撲空間なのかしら。


 実力は互角だ。

 魔王さんは、どれだけ稽古を重ねたのか。

 どれだけの素質があったのか。

 凄い力士だ。

 さすがは魔界の横綱だ。

 なんという強敵か。


「キタ!」

「!!」


 力の質が変化した。

 魔王さんの筋肉の膨張が解けていく。

 そして、彼はすらりとした体に変身した。

 体重も元の魔王さんよりも、ずっと減った。


「第三段階だ。凄いな君は。この形態フォームに入るのは五百年ぶり、神族を相手した時以来だな」


 背筋に電流が走るような感じがした。

 彼の力の質がとんでもなく上がっている。


 負ける?


 機動力重視形態だ……。


 私は廻しを取られて上手投げを打たれた。

 なんという技の切れ。

 なんという速度。

 夢のような上手投げだ。


 相撲スピリッツを高速回転させて、踏ん張る。

 投げられる。

 投げられる。

 投げられる。

 踏みとどまった!


 外形がつるんとした感じに変わった魔王さんが不思議そうな顔で私を見た。


「なぜ、踏みとどまれる?」

「しらないっ!」


 今の上手投げをどうしのいだのか、私も解らない。

 絶対に投げられたと思った。

 それぐらい、完璧な技、とてつもない神速だった。


「神をも倒す、この形態フォームを人でありながら抵抗するとは。面白い、面白いなっ、フローチェ!!」


 魔王さんは獰猛な感じに笑った。


 神の上手投げを踏みとどまり、私は余力が無くなった。

 まずい、あのクラスの技を掛け続けられると最後には投げられる。

 こちらも攻めないと。


 櫓投げの前段階に膝をかち上げる。


 バリバリバリ。


 雷鳴サンダーが発生する。


「ふっ」


 魔王さんは雷よりも早く動いてそれをすかした。

 雷撃よりも早く動けるのかっ!!

 なんという強さなのか!!


暗黒ブラインドそっ首落とし!」


 光の速さで魔王さんの腕が上がり、私の首目がけて打ち下ろされた。

 まずいっ!

 暗黒ブラインドのデバフが掛かったら……。


 ドガン!!


 私は彼のそっ首落としを額で受けていた。


「ぬ?」


 解せぬという顔をして、瞬間移動のように魔王さんは組打ちを離れた。

 そして手を引く。


「張り手……」


 くっ、中距離技かっ!!


重撃砲カノン


 投石機カタパルトではなかった!

 それはまさに大砲と言える威力の付与技だった!!


「張り手投石機カタパルト!!」


 こちらも張り手技だ!

 投石機カタパルトの音速衝撃波は、魔王さんの重撃砲カノンに当たり砕け散る。

 だが、かまわない。

 方向が変わり重撃砲カノンの衝撃波は花道を砕き通路を粉砕した。


 ハアハアハア。


 力の次元が違う。

 さすがは魔王さんの第三段階だ。

 魔界に君臨する王者だけはある。

 もう、神の領域なのだろう。


「くくくっ、面白い、まったく人間は面白い、こうでなくてはなっ!!」

「勝負だ、魔王さん!!」


 私は吠えると全力で接近する。

 魔王さんはもの凄い速度のつっぱりを機関銃のように私に撃ち込む。

 一発でも食らうと、私の肉体は砕け、土俵の外に吹き飛ぶであろう。

 だが、かまうものか。

 これまでも勝てない相手に立ち向かって来たんだ。

 前に出る。

 命を賭ける。

 それが、私たち相撲取りという生き物だ!!


 相撲スピリッツの借力を全て感につぎ込み、全ての突っ張りを避ける。

 踏み込む、踏み込む。

 全速で踏み込んでいく。


「おおおおおおっ!!」


 いつの間にか口が笑いの形を作っていた。

 そうだ、これだ。

 魂がヒリヒリするような緊張感!

 命を賭ける緊迫感!

 そして、強敵と戦える高揚感!!


 相撲スピリッツLv.2の回転数ケイデンスを極限まで高め、土俵上をすり足で高速移動する。


「魔王さんっ!!」

「フローチェッ!!」


 再び私たちは激突した。

 その一瞬で、魔王さんは腰投げを打ってきた。

 完璧な腰投げ。

 タイミングも、速度も完璧だ。

 私が投げられない訳が無い技。

 だが、踏ん張った。


「なにいっ!!」

「神の技がなんだというのだっ!! 完璧が怖くて相撲が取れるかっ!!」

「くううっ!! これだから人間はっ!! 理屈も常識も勢いで吹っ飛ばしやがるっ!! だからこそ、すげえ面白えっ!!」


 魔王さんの完璧な技に、私の泥臭い動きが拮抗していく。

 大丈夫。

 大丈夫。

 なんだか、ミクロン単位で完璧をしのげる。

 自分で何をやってるかは何にも理解できないけど、ほんの刹那のタイミングで対抗出来ている。

 とてつもない恐怖と歓喜が私を包んで、そして、動く。

 まだ、やれる!

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― 新着の感想 ―
[一言] 格好いいです。フローチェ!
2022/07/08 07:36 退会済み
管理
[一言] 横綱が神の依代であることを知ったらやたら文句言いそうだな魔王
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