第五十九話 大将戦、フローチェ対魔王①
仕切り線を挟んで魔王さんと向かい合う。
気合い十分ね。
制限時間前に立つかもしれないわ。
にらみ合ってお互いの間の空間が歪むぐらいの殺気が漂う。
立ち会いの時、立つタイミングは頭では考えていない。
その時が来ると、なんだか体が勝手に立つのだ。
自動的な物のような気がする。
同時に土俵に拳を付けて、立った。
瞬発力。
は、相撲取りにとって大事な素養だ。
立ち会いのわずかな距離の間にトップスピードまで上げて激突する。
痛み、とか、は感じない。
強い衝撃だけが後方に伝わる感じね。
ドカン!!
激突する。
お互い廻しを取ろうと手を出し、相手の体を叩く。
私はドレス姿だからポスポスという音なんだけど、魔王さんは廻し一丁なので、体に私の平手が当たり、ピチピチという音がする。
右廻しを取った!
左廻しを取られた!
お互いの右手が下手で廻しを取り、お互いの左手が上手で廻しを取る。
がっぷり四つに組み合った。
上手いわね、魔王さん。
どれだけ真剣に相撲を取ってきたか、彼の積み重ねた稽古がわかるわ。
魔導列車場所の時よりも動きが良くなっている。
すごいわね。
『のこった、のこった!』
グレイ審判がかけ声を掛ける。
土俵の外の観客席が遠く感じる。
この世の中に、私と魔王さんだけがいるような感覚。
とても静かな感じだわ。
お互いがお互いの重心を崩そうと廻しを取った腕に力を入れる。
拮抗しているわね。
遠くから力が近づいてくる気配。
私の背後に巨大な歯車がどこからか解らない高次の力を伝えてきてブーストする。
一瞬魔王さんが押されるが、彼の背中には山羊の髑髏型の相撲魂が現れて高速回転して押し戻す。
さあ、見せてちょうだい、変身の第三段階を!
私は左右に振るように廻しを引きつける。
魔王さんは相撲魂の回転数を上げて抵抗する。
相撲魂の出力が、
私の方が大きい、気がする。
魔族は元々の力が強いし、特殊能力もあるから相撲魂の出力が小さいのかもしれないわね。
魔王さんの肩に額を押しつけるようにして、押す、押す、押す。
ずりずりと魔王さんを押していく。
「ぐっ!」
押された魔王さんの筋肉がぐねぐねうごめき出した。
ぼこりぼこりと筋肉が膨張し始めた。
あちこちにトゲが生えてドレスに引っかかるのは難点ね。
魔王さまの第二段階。
魔人化だわ。
上背が上がり、鱗の生えたゴリラのような威風堂々とした魔物の姿に彼は変わっていった。
「第二段階ダ」
「良いわ、その先も見せて」
ニヤリと私は笑うのだけれども、第二段階の魔王さまに押されて、じわじわと後ろに動かされる。
第二段階に入ると、魔王さんの力は倍ぐらいに上がるが、若干動きが遅くなる。
力の強い相手に対しては、相手の動きをすかすようにすると対応しやすい。
ファラリス相手に学習済よ。
魔王さんは綺麗な動きで技を掛けてくる。
動きが重いので、対応は楽ね。
私は彼の動きの先を読んで、重ねるようにして腰投げを狙う。
おっと、すかされた。
さすがに相手が横綱になるとシンプルな技は読まれてすかされる。
やっぱり凄く強い。
私がこれまで戦ってきた力士の中で、一番強くて、バランスがいいわね。
魔王さんは小手先の技をやめて、押してきた。
これだけの体格と体重ならば、シンプルに押すのも効果的だ。
投げ技やひねり技と違って切り返しが出来ない分堅実な戦い方なのよ。
魔王さんは基本に忠実な押し相撲だ。
じりじりと白土俵の中を割って押し込まれる。
まずいわね。
白土俵に足を踏み入れたというのに、魔王さんの前に押すパワーが変わらない。
相撲魂の回転数を最高にぶんまわしているけど、力がかなわない。
押し相撲はシンプル過ぎて対処法が押し返すか、いなすかなんだけど、ゆっくり動いているので、いなすのも難しいわ。
掬い投げを、
と、思ったのだけれど、なにか嫌な予感がしてやめた。
付与技は何か罠がある気がするわ。
そう囁くのよ、私の相撲感覚が。
ふっ、と、魔王さんが押す力が弱くなった。
違うわ。
彼の力が弱くなったんじゃなくて、相撲魂にもう一つ、力の伝達歯車が生まれて、高速で回っていた。
ピンクで花柄の歯車!
どの神からの借力なのかしら。
観客席で、アデラが目を閉じて祈っているのが見えた。
なんだか毎回アデラが祈っていると出る気がするわね。
まあ、只の偶然ね。
アデラは三国一の粗忽メイドだから、借力の元だなんてあり得ないわよ。
神様でもないし。
花柄で少女趣味だから、女神フローレンスさまの歯車かもしれないわね。
女神様、ごっちゃんです。
相撲魂がLv.2になった、全身にこんこんと力が湧いてくる。
私は魔王さんの押し相撲をピタリと止めた。
押し戻す!
押し戻す!
さらに押し戻す!!
いつしか私の足は黒土俵を踏んでパワーダウンした。
さあ、ここからが勝負よ!
魔王さん!!




