第三十三話 四番勝負、ファラリス対アリマ②
疾走する魔導列車の上で、ファラリスとアリマ関は激しい相撲を取っているわ。
どこまでも続く赤土の荒野が西部劇な雰囲気をかもしだしているのね。
ガタターン。
ガタターン。
力ではファラリスが勝っている。
技ではアリマ関だ。
力と技で拮抗した大相撲よ。
ちなみに勝負が長丁場になると、大相撲というのよ。
アリマ関が肩をゆすった。
ぎゅっと笑顔を浮かべた。
怖い顔なので、笑顔もなんだか怖いわね。
じわり、と背後に溶岩で出来たような火炎が回り始めたわ。
相撲魂!
「ぐうううっ!!」
力での拮抗をしていたファラリスがうめき声をあげた。
ぐいぐいとアリマ関が押していく。
「こりゃあ、坊は負けるな」
私の隣で観戦していた、水竜のミズチさまがぽつりと言った。
「ファラリスも相撲魂を出せば」
「フローチェさまよ、わしら竜は強いので、神からの借力ができにくいのよ」
「え?」
相撲魂の正体は神様から力を借りる事なの?
知らなかったわ。
お相撲の神秘かなにかだと、ずっと思っていたわ。
「アリマ関の光背は溶岩みたいじゃろ、あれは火山と礼節の神トヒルさまの象徴じゃな」
私とリジー王子の歯車はどなたさまの借力なのかしら。
タケミカズチさまのような気がするのだけど。
タケミカズチさまは、最古の相撲神よ。
古事記では、火のような右腕と氷のような左腕でタケミナカタさまを破って、相撲で出雲の国譲りを勝ち取ったわ。
まったく、お相撲って奥が深いわね。
力での有利を失ったファラリスはどんどん押し込まれていくわ。
なんとか、抵抗しようとしてるけど、アリマ関はシンプルな押し相撲で抵抗を許さないわ。
ああなってしまうと、対処方があまりないのよ。
ファラリスの大ピンチだわ。
アリマ関は相撲魂のバフを頼りに白土俵に入ってもぐいぐいとおしていく。
ファラリスの右足が徳俵に掛かったわ。
「ファラリス、頑張れーっ!!」
「頑張れー、坊~!!」
アリアカ側の観客席から声援が飛ぶ。
ファラリスの肩の筋肉がぼこりとふくれる。
汗が飛び散って綺麗だわ。
「みんなの想いがかかってんだ、こんな所で負けるかーっ!!」
アリマ関が怖い笑顔でうなずいた。
バン!
音を立ててファラリスの背後に十二枚の羽が開き、回転しはじめた。
「おおっ!! 龍神ニメンスさまの十二枚羽じゃ!! 坊が借力しおった!!」
ファラリスは吠え声を上げてアリマ関を押し返す。
アリマ関は満足そうにカカカと笑った。
「これが相撲魂かっ!! 無限に力が湧いてくるぜっ!!」
足を掛け、重心を崩し、技をすかし、ファラリスとアリマ関は土俵の上で死闘をくりひろげる。
まるでに二匹の蛇が絡み合い、のみ合うようなドロドロとして、それでいてどこか神聖で峻厳な雰囲気の死闘だ。
「ファラリスーっ!! がんばってー!! こんどオヤツをあげますよーっ!!」
「ファラリス、頑張りなさいっ!!」
アデラとわたしが声を掛けると、ファラリスの動きが滑らかになった。
相撲魂のバフを上手く使えるようになってきているわね。
おたがいが相撲魂を高速回転させながらの大相撲。
ぬるぬると動きあい、必殺技を狙う。
アリマ関が上手投げを打つ。
ファラリスが下手投げを打つ。
投げの打ち合いだ。
そのまま、土俵際まで二人は移動していく。
「いっけーっ!!」
「……!!」
アリマ関の腕の筋肉が膨張する。
ファラリスの腿の筋肉が膨張する。
お互い一歩も譲らず、土俵際に向けて相撲力が炸裂していく。
そして、二人は宙に舞う。
アリマ関が小さな羽で速度を落とそうとした。
ファラリスは逆に羽ばたいて加速する。
ドカーーン!!
どっちだ?
どっちが先に土俵から落ちた?
『勝者、ファラリス!!』
ファラリスが満面の笑顔で立ち上がった。
逆に加速したのが良かったようね。
ファラリスは手を差し出す。
アリマ関はその手を取って立ち上がった。
「ファラリス、強い……」
「アリマさんも強ええな、またやろうぜっ」
「次は……、勝つ……」
「おうっ、次も俺が勝つっ!」
ああ、良いわね。
良いお相撲さんは勝っても負けてもさっぱりしてすがすがしいわ。
「やりおったな、坊!! 龍神ニメンスさまの借力とは見事じゃっ」
「力を貸してくれたのは、ニメンスさまって言うのか、ありがてえっ」
「今度、北の祠へお礼の参拝に行こうぞ」
「そうだな、一緒に行こうぜ、婆」
まあ、ファラリスったら、マダムキラーな笑顔を浮かべているわね。
こうかはばつぐんだ。
相撲魂を使ったらお礼の参拝とかするべきなのかしら。
でも、こっちの世界にはタケミカズチさまの鹿島神社はないし。
王都に分社を勧誘しようかしらね。
アリアカ相撲協会の雷電さんに頼めば何とかしてくれるかしら。
なにはともあれ、星は二対二、次の魔王さまと私の取り組みで決まるわね。
がんばらないと!




