第三十四話 五番勝負 フローチェ対魔王①
カタンカターン。
カタンカターン。
リズミカルな線路の継ぎ目の音と振動が心地良いわ。
魔導列車は荒野を抜けて、湿原地帯にさしかかっているわ。
緑が目に優しいわね。
風の匂いがアリアカに近づいた事を知らせてくれる。
「ひがぁぁしい、フロォォチェェェ、フロォォチェェェ。にしぃぃぃ、まおぉぉぉ、まおぉぉぉ」
土俵の上でアデラが白扇子を広げて私たちを呼び出したわ。
「がんばってね、フローチェ」
「がんばってください、親方!」
「勝ってくれよ、横綱っ」
「おきばりなされな」
「ワンワンワン!!」
皆の声が私の背中を押してくれるわ。
「行ってくるわ」
よし、魔王さんを倒せば、この逃避行も終わりね。
星は二対二、泣いても笑っても最後の一番だわ。
団体戦は初めてだったけれども、色々な魔物さんのお相撲が見られて楽しかったわ。
エルフの森共和国から、ドワーフ大玄洞へ、長い旅だったけど、最後は魔導列車で楽だったわね。
私と同時に魔王さんも土俵に上がってきたわ。
にこやかに笑っているわね。
「なんだか、魔王さまなのに威厳が無いのね」
「寿命が長いんでなあ、これで治世が二百年ほどか。あまり威張っても意味ないってわかってくんのよ」
「エアハルトの方が重々しかったわ」
「ああ、あいつは何にも解ってねえからな。そうだ、俺の息子を負かしてくれてありがとうよ」
「意趣返し?」
「よせやい、真面目にそう思ってるんだよ。男は一回ぐらいは負けないとな。自分は世界最強じゃねえ、どんなに力があってもどうしようも無い負けはあるんだって思い知らないと、心がでっかくならねえのよ」
なんだか、私が思っていた魔王さまのイメージと違うわね。
実物はもっと気さくで、それでいて人の器が大きい感じだわ。
「もっと傲慢で放漫なお方かと思っていたわ」
「魔物も色々と姿が違うだけで人間だからな。力で押さえつけるよりも行動で見せた方がやりやすいんだ」
「ちゃんとした君主ですのね、誤解しておりましたわ」
「ありがとうよ。さあ、アリアカの相撲と、魔界の相撲、どっちが強いか、勝負だぜっ」
「面白いですわ。そういう頭の悪い力比べは大好きよっ」
「まったく、たいした女だぜ、あんたは」
魔王さんに、そう言われると嬉しいわね。
私は塩をとり土俵にまき、ファラリスから力水を受けた。
「すげえな、魔王さん、とびきり強そうだ」
「魔界は弱肉強食だから、腕っ節の強さが大事なんでしょう。ただならぬ強敵だわ」
「次は俺も魔王さんと戦ってみてえな」
「そうね、今度、魔界に興行にいくか、彼らを王都に招待しましょう」
「本当かい? そりゃ楽しみだなあ」
まったく、ファラリスも愛すべき相撲馬鹿よね。
私が仕切り線に付くと、魔王さんも構えた。
『見あって見あって』
お互いの呼吸を探り、合わせていく。
この緊張感がどんどん上がって行く瞬間が好きだわ。
魔王さんはそんなに大きくは無いわ。
普通の成人男子ぐらいの背よ。
筋肉は良く付いていてソップ型ね。
廻しは黒だわ。
アリマ関と同じ、上級悪魔なのに羽は無いわ。
頭には角が二本あって、お尻にはライオンみたいな尻尾が付いているわね。
人と違うのはそれぐらいよ。
気迫が彼のただならぬ強さを伝えてくるわ。
ぞくぞくするわね。
こんな強敵と戦うのは初めてかもしれない。
きっと相撲魂も使えるし、付与魔法もあるわね。
魔界の横綱、私と同じ地位だわ。
人となりをみると、彼はずるをして横綱になったとは思えない。
ルールのスキを突くのは好きだけれど、本質的にはまっすぐな人なんだと思う。
動きで解る。
どれだけの稽古を積んできたか、どれだけ真剣に戦ってきたか。
何気ない、ただ一歩の踏み出しで私には全部解る。
魔王さま、ものすごく強いわ。
呼吸がぴたりと合った。
土俵を蹴って立ち上がる。
ドカーーン!!
私と魔王さんは激突した。
あ。
あ。
この人の動き、すごいわ。
動きの切れが半端ない。
力がダイレクトに伝わってきてる感じだわ。
強い!
「強いなっ」
「あなたもねっ」
最初のぶちかましは互角だった。
廻しの取り合いになる。
お互い、左で下手をとり、左四つの体勢になった。
すごい、動きに餅のような粘りがある。
こんな動きの質の力士は初めてよ。
土俵の真ん中で押し合う。
力が強いわ。
ガコン!
と、歯車がかみ合う感じがして、私の相撲魂が回転を始めた。
角の生えた山羊の髑髏が四つ、魔王さまの背後に浮かび上がり高速回転を始めた。
まあ、なんてパンクな相撲魂なのかしら。
力が拮抗している。
魔王さんはこちらの体勢を崩そうと廻しを引きつける。
同じ力でこちらも引きつける。
左下手を外して魔王さまを抱えるようにして、掬い投げ。
彼は重心を操作して、するりとすかした。
魔王さまはそのまま上手投げに移行したが、私は体を戻し魔王さまの廻しを取った。
痺れるような緊張感。
少しでも気を抜くと投げられる。
なんという高度な読み合い。
強い。
強い。
なんという強さか。
私は知らず知らずのうちに獰猛な笑みを浮かべていた。




