第二十七話 魔導列車場所がついに始まる
震発号の最後尾のデッキと轟輪号の先頭デッキに橋がわたされたわ。
ちゃんと手すり付きね。
「ふん、魔王軍のものまね列車にしてちゃんとしておるのう」
「おうよ、任せろ、こいつが轟輪号を作った教授ゴブリンだ」
「ここ、こんにちはゴブ。震発号を参考にして作ったでゴブ」
「おお、ゴブリンが作ったのか、そうかそうか、良く出来ておるな。偉いぞ」
教授ゴブリンは嬉しそうにはにかんだ。
「ドワーフ大玄洞が先に作ってらっしゃったからだゴブ。真似するのは楽だったゴブよ」
「何を言うか、情報があったとて、動く所を見たとて、なかなかこうは真似はできんぞ、誇るべきじゃよ、教授」
「あ、ありがとうゴブ、や、やっぱり物作りはドワーフさんゴブね。尊敬してリスペクトしているゴブ」
「で、エンジンは何式じゃ、どうして震発号を越える速度をだしておる?」
「ど、独立三気筒風火魔石エンジンだゴブ。風を暖めて膨張力を使ってるゴブ。ただ、燃費が悪いゴブよ」
「おお、そうか、それは盲点じゃったわい! エンジンをエンジンを案内してくれんか!」
「こっちゴブ、いろいろ工夫があるゴブよ」
「面白い、震発号の外から見てもわからないノウハウを教えてやろう」
「い、いいゴブか!」
「知識を惜しんでいては凄いカラクリは作れんからな、その代わり、良いノウハウがあれば、こちらも真似をするぞっ」
「望む所ゴブ!」
技術馬鹿さんたちは嬉しそうに連れだって機関車の方へ行ってしまった。
「……」
「……」
私は魔王と顔を見あわせた。
「ま、まあ、あれだ、機械屋たちは技術交流とか好きだな」
「そうね、ゴブリンなのに凄いわね」
「ああ、ゴブリンは人口が多いからな、結構変わり種が出るんだぜ」
ゴブリンって、魔界における人間みたいな物かしらね。
人間は大陸では知性ではエルフに劣り、頑丈さではドワーフに劣り、芸術ではハーフリングに劣るけれど、沢山いるので、沢山の個性を持ってるわ。
私たちは土俵列車に入った。
並んだ暗黒相撲の力士たちに黙礼をした。
アリマ関が魔王さまがすまん、とばかりに頭を下げてきた。
いいのよ、団体戦のルールを押し通すのも駆け引きのうちだわ。
本当にアリマさんは律儀なお相撲さんね。
「それでは、こちらは先鋒マミアーナさん、次鋒がワン太、中堅がリジー王子、副将が空席、大将がフローチェお嬢様になります」
「ああ、そうかい、副将が空席ね。いいねいいね」
「本当に卑怯ですね、あなたは」
「わはは、威勢の良いメイドじゃねえかっ、おもしれえメイド……。は? はああっ!?」
魔王さんがアデラをみて口をあんぐりとあけて驚愕の表情を浮かべた。
いつもひょうひょうとした感じの魔王さんにしては珍しいわね。
「な、なんですか、魔王さん」
「い、いやだってよう、おまえの正体……」
アデラがバーンと音を立てて魔王さんの足を踏んだ。
……。
あまりの事態にみんなシンと沈黙をした。
「な、ん、で、す、か!?」
「あ、その、すいません、勘違いです……」
「よろしい、馬鹿な事を言うと、天ば……、メイドマジックで呪いをかけますよ」
「はい、ごめんなさい」
ア、アデラは凄いわね。
魔王さんの足を踏んだメイドは歴史上初だと思うわ。
あと、メイドマジックって何?
マミアーナさんと、ワン太に廻しを付ける。
私とリジー王子の予備の廻しがあって良かったけど、ワン太の廻しはなんだか模様が入って派手だわね。
「出入りの武具屋さんのサンプル廻しですよ。まあ、似合ってるからいいでしょう」
「そうね。ああ、でも可愛いワン太に早く戻って」
「戻って」
「バウン……」
ワン太は寂しそうな声で吠えた。
マミアーナさんはドワーフ相撲の伝統ユニフォームの上に廻しを締めた。
「なんだか、引き締まる感じですね。持ち手は基本廻しなんですね」
「そうよ、ドワーフ相撲の投げ技からの翻訳が難しいかもしれないけど、マミアーナさんならやれるわ」
「がんばりますっ」
マミアーナさんは基本が出来てるからゲスマン氏よりは条件が良いけど、本格的な相撲をするならもっと稽古が必要ね。
相手のミノタウロスのゴゴンテス関が四股を踏んでるわ。
なかなか、できあがった相撲ね。
強敵だわ。
ただ、特殊な技は持ってなさそうね。
筋肉で圧倒するタイプね。
ぶちかましが強そうだわ。
立ち会いで変化していなすようにマミアーナさんに言った方が良いかしら。
……。
いえ、初心者が変化したりしてもだめね。
余波で押し出されるのが落ちだわ。
「マミアーナさん、相手は最初にドカンとぶちかましてくるから、全力で受け止めて耐えてね」
「わかりました。ドワーフの頑丈さを見せてやりますよ」
ああ、団体戦は不安ね。
でも、それが楽しいわ。
私は黒土俵に向けて土俵召喚を唱えた。
みるみるうちに、黒土俵は白い部分を増やし、太極図土俵へと姿を変えた。
そして、半透明の行司さんも、半透明のグレイ審判に変わった。
ビーーー!
景気の良い汽笛が一声鳴いて、私たちを乗せたまま、魔導列車は峡谷をばく進していく。
「さあ、相撲を始めようぜっ!! フローチェ横綱!」
「そうね、始めましょう、魔王横綱!!」
魔導列車場所が、今、開催されたのだ!




