第十七話 魔界大関アリマ、立つ
アリマさんが四股を踏み始めた。
ズーン。
ズーン。
これは重くて良い四股だわね。
果てしないしんどい稽古で培った綺麗で重さのある四股だわ。
すごいわね。
大関というのは、横綱に片手が掛かった高位の相撲取りよ。
ほれぼれするほどの完成度だわ。
所作の全てが完成されていて芸術品のよう。
私も返礼で四股を踏む。
ズーーン。
ズーーン。
ああ、四股は良いわね、頭の中が清浄になり、清らかな気持ちになるわ。
私の四股を見て、アリマ関はニッコリと笑ったわ。
暗黒と付いているけど、彼は同じ相撲を志す者として尊敬すべき力士だわ。
「星は一対一、大一番だ、頑張って、フローチェ」
「はい、楽しみですわ」
「ワンワンワン!」
「あら、ワン太も応援してくれるの、ありがとうね」
しゃがみこんでワン太の頭を撫でた。
モフモフパワーを頂きますわ。
ごっちゃんですっ。
アデラが土俵に上がり、白扇子を開いて、呼出しをし始める。
「ひがああしい、フロオオチェエ、フロオォチェエ、にしいい、アリィィマァァ、アリィィマァァ」
さて、行こう。
私はパアンと両頬を叩いて土俵に上がる。
土俵で対峙するとアリマ関は大きいわね。
真っ赤な体皮をした二メートルを超える巨体で、鍛え上げられた筋肉を薄く脂肪が包んでいるわ。
理想的なソップ体型ね。
彼はグレーターデーモンらしいけれど特殊能力は何かしら。
テレポートとかは使わないわよね。
顔はコワイけれど小さい目がつぶらで可愛い感じよ。
頭には大きな角が生えているわ。
背中には小さなコウモリの羽があるのだけど、飛べるのかしら?
ああ、こんな強敵と戦えるなんて、なんて幸せなのかしら。
『みあってみあって』
グレイ審判が私たちの間を平手で分ける。
アリマ関と私の呼吸がだんだんと合う。
一瞬、呼吸がぴったりと合致し、 とんと土俵に拳をつけてお互いが動きはじめる。
ドカーーン!!
鍛え上げられた力士と力士がぶつかり合う。
私の背中には光背のように相撲魂の歯車が回る。
アリマ関の背後には、炎で出来た車輪が回っている。
ぶちかましは互角!
さすがねっ!
そのまま廻しの差し合い。
手で防ぎながら相手の廻しを狙う。
ああ、ああ、すばらしい。
技と体と心が相撲を動かしている。
私は姿勢を低くして懐に飛びこむ。
もろ差しをもら……。
「ブラインドそっ首落とし……」
どんっ!
首の後ろに衝撃が走ったと思ったら、目の前が真っ暗になったわ。
敵の付与魔法!
デバフの視界を奪う系の技なの!!
油断したわ!
相撲魂を駆動できるなら、付与魔法も当然使えるのよ。
衝撃を受けている瞬間を盗まれて、上手から廻しをがっしり取られたわ。
相撲は一瞬で終わる事もある。
技が綺麗に入るとどうしようも無い時がある。
真っ暗な視界では、何も出来ない。
ぐうと左廻しが引きつけられて投げ技が来る。
瞬間相撲魂が高速に回転して、何の技か解った。
腰投げだ!
重心をさばいてなんとかすかす。
ぼやりと、相撲感覚がアリマ関の動きを白いもやのようなもので伝えてくる。
ブラインドの効果時間は?
解除されるまで、この視界でアリマ関の猛攻をしのがないと。
上から後ろ回しに手をかけられた!
くっ、波離間投げ!
水の匂いがする、付与付きだ!
おおおおおおっ!!
防御していては負ける。
攻めるんだっ!!
私は前に出て右膝をアリマ関の足の間にねじ込んだ。
バリバリバリバリ!
「雷撃……櫓投げか……」
アリマ関は後ろ廻しから手を放し、後ろに下がり櫓投げをすかした。
はあはあはあ。l
勝負勘が凄いわね。
視界が元に戻った。
アリマ関は満足そうに笑っていた。
「強い……」
「あなたもねっ!」
「相撲を……」
「楽しみましょうっ!!」
私も笑っていた。
肉食獣のような獰猛な笑顔が自然に出る。
いいなあ、いいなあ。
強敵との相撲はいい。
相撲魂も。付与技も全開で、足下は対極図土俵。
ただただ、相撲で勝つことだけを考えて全力で前進する。
アリアカ相撲では味わえない異質で高度な読み合いが発生しているわ。
そっ首落としにはブラインドの付与。
波離間投げは水系の付与魔法が掛かっているのね。
体格差があるから、そっ首落としは警戒しておかないと。
私たちは再びがっぷり四つに組み合った。
「フローチェ、頑張れーっ!!」
「ワンワワワンッ!!」
「お嬢様~~!! ファイトでーす!!」
リジー王子とワン太とアデ吉の声援が聞こえる。
「アリマさま、行けますっ! お倒しくださいっ!!」
「大関!! やっちゃいなーッ!!」
ククリさんとウタさんの声援も聞こえた。
私とアリマ関はぐいぐいと土俵上を押して押されて、技を掛け合い、付与魔法を封じて、封されて、戦い合う。
付与魔法は技が最後まで入らなければ発動はしない。
来ると解ればすかす事はできる。
まったく強い。
どっちが勝っても負けても不思議は無い。
ああ、すごく、楽しいわ。




