第十五話 ククリとゲスマン戦、決着
「アラクネ族は相撲に有利ですね、六本の足は細いですが安定感が違います」
「蜘蛛のお腹が生えると体重も倍になって無いかしら、相撲をやるために生まれたような種族ね」
恐ろしく機動力がある重戦車みたいなイメージだわ。
多脚で体重が多いからひっくり返すのも難しそうね。
人間体でも頑張り屋さんで、はね上がるようなバネがあって素質の高さを感じさせるククリさんだけど、魔物の姿だともっと凄いわ。
ゲスマンさんはそのククリさんの猛攻を紙一重で避けまくるわ。
基礎体力と剣で培った勝負感が効いているわね。
ああ、せめて一ヶ月、相撲の技や駆け引きを教えてからククリさんに挑戦させたかったわね。
ゲスマンさんは黒土俵に足を踏み入れて動きが鈍った。
ククリさんはチャンスとばかりに組み合い前褌を取った。
いけない、組み合っての攻防は初心者には荷が重いわ。
「ワンワンワン!!」
私が胸に抱いたワン太が、頑張れというようにゲスマンさんに声援を送る。
ククリさんの肩にぐいと力が入った。
投げ技はまず相手の体勢を崩す。
その後に技を掛ける物だ。
「初心者にしては頑張ったわね、あなた相撲の才能があるわ」
「そいつは、どうもっ」
ぐいとゲスマンの体勢を崩し、上手投げ。
『のこった! のこった!』
のこった!
しんじられない腰の粘りでゲスマンさんは上手投げをすかした。
ああ、技さえ、技さえ知っていればチャンスなのに。
もどかしい!
「くっ!」
すかさずククリさんは体を押しつけ廻しを引き上げ、足を掛け……、え?
左前足と、左の中足を同時にゲスマンさんの足に掛けた。
多重掛け!
足が六本あるアラクネならではの技だ。
ゲスマンさんは耐える耐える耐える。
「くううっ!!」
「ぬあああっ!!」
ぎゅるん!
ゲスマンさんの背後に多数の剣が花開くように車輪を作り、回り始めるのが見えた。
相撲魂だ!
「負けられないんっすよっ!!」
「押しなさいっ!! ゲスマンさんっ!!」
完全に組み合っている。
離れて張り手中心で戦うよりも、相撲魂を信じて押していった方が良い。
ゲスマンは二本がけされたククリさんの足をそのままに押していく。
掛かった、相撲魂のスーパーバフだ!
ククリさんは掛けた足を外し六本足で踏ん張る。
「やるわね、あなた、いえ、ゲスマン関」
「ぬおおおおおおっ!!」
ゲスマンさんは真っ赤な顔でククリさんの廻しを握り、押す。
そうだ、相撲魂が掛かった押し相撲なら。
「ゲスマン頑張れーっ!!」
「やるんじゃ、ゲスマンッ!!」
「ワンワンワン!!」
アラクネの巨体が痩せ細ったエルフの力に押されて土俵を割っていく。
ああ、そうだ、そういう奇跡が相撲だ。
相撲は魂でやるものなのだから。
「これはやったね、フローチェ」
「まさか……」
アラクネの右側の足の三本が徳俵に掛かった。
ククリさんの決意を秘めた表情の後ろ、背後に糸紡ぎの車輪のようなものが見えた。
まさか。
蜘蛛の腹の上、背後を光臨のように回る物がある。
相撲魂だ……。
魔界相撲の力士にも相撲魂が使えるの?
ゲスマンさんの押す力と、ククリさんの押す力が拮抗した。
そうか。
それはそうだ。
暗黒相撲と言ってはいるが、あれはきちんとした相撲だ。
で、あるなら、相撲魂が力を貸さない訳がない。
これが公平という物だ。
「相撲魂!」
「私たちの専売特許というものでは無くなったわね」
「面白いじゃないか」
「そうね、血がたぎるわ」
私とリジー王子、二人の相撲馬鹿は獰猛な笑顔を浮かべるわ。
「ゲスマン関! あなたには才能があるわ、次が楽しみよっ!」
ククリさんが体を開きゲスマンさんの力を利用して小手投げを打った。
「うわああっ!!」
ゲスマンさんはたまらず土俵を転げ落ちた。
『勝者ククリ』
グレイ審判が暗黒相撲側に手を上げた。
ククリさんは蹲踞の姿勢で勝ち名乗りを受けた。
ククリさん、あなたはとんでもなく強いわね。
素晴らしいわ。
王都で人間体のあなたと戦った時よりもずっと腕前が上がっているのね。
クリフトン部屋での稽古で成長したのだわ。
土俵の下でゲスマンさんは地面を叩いて悔しがっていた。
エルフの爺さんたちが掛けよってきた。
「ようやったようやった、ゲスマン、お前はエルフの誇りぞ」
「負けちゃなんにもなりやせんっ、くっそーっ!」
「馬鹿者めアラクネさんも長い長い修行の末のあの相撲じゃ、善戦しただけでも誇らしいことだぞいっ」
「どうじゃろう、相撲魔法に精霊の力を借りるなんぞは」
「おお、ええのう、エルフらしい相撲をこれから作らねばなあっ」
魔法マニアのお爺ちゃんたちが興奮してるわね。
「ゲスマンさん、落ち着いたら王都に相撲を覚えにいらっしゃい、あなたは立派な相撲取りよ」
「フローチェさん、俺は、俺は」
ゲスマンさんは泣き崩れた。
うんうん、負けたら泣いて、それから稽古よ。
初回で相撲魂を発動させるなんて見所があるわ。
アリマさんもうなずいて満足そうね。
アラウネ力士のウタさんが土俵に上がった。
「次はわたしねー、イケメン王子さま、カマーン」
なんかチャラいわね。
アラウネというけれど、足は普通で歩けるのね。
なんだか、彼女はよろよろして歩くのが遅いのだけれど、お相撲は取れるのかしら。
ウタさんの肌は薄緑色で、赤い目をしているわ。
頭には沢山の花が咲き、腰回りに大きな花があるわ。
お花で出来たパンツというか、ブルマというか。
それを分断するようにツタ草で組んだような植物廻しを締めているわね。
彼女は絶世の美少女で、リジー王子と取り組ませたくないけれども、お相撲だから仕方がないわ。
「王子、気を付けてください」
「うん、魔物の特性を持つ力士と戦うのは面白いね。そして彼らは強いね」
「はい、負けないでください」
「大丈夫だよ、任せておいて、フローチェ」
リジー王子はいつもの優しい笑顔で笑いますわ。
ご自慢の猫耳は今日もピンと張っています。
ああ、二年の間になんと頼もしくなったのかしら。
優しく強い、私の理想の王子さまですわ。
「目元ぱっちり色白で~♪ 髪は鴉の濡羽色~~♪ 立てば芍薬 座れば牡丹~~♪ 歩く姿は百合の花~~♪」
「とても綺麗な歌だね、僕はフローチェの歌が好きだよ」
「あら、ついつい」
いけないいけない、思わず女性を褒める甚句をリジー王子に捧げてしまったわ。
はぁどすこいどすこい。




