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第16章・意志の確認


 本番3週間前。昼休みの生徒会室に、いつものメンバーが集まっている。


「結局、嫌がらせはデータの消去と布地だけ?」


「そう。しかも妨害目的にしては効果が薄い。データもすぐに作り直したし、布地の件に至っては実質被害ゼロと言ってもいいぐらいなんだ」


 布地とは、夜季がステージに使う背景として用意していた白い大きな布のことだ。雛子が美術室を訪れた日の翌日、夜季が美術室に行くと、その布路が引き裂かれていた。


「自然にどこかに引っかかったって感じじゃねえ。ハサミかなにか、刃物を使ったような切り口だった」


 幸い、夜季はまだキャンバスで下絵を描いている段階で、布地には一切手をつけていなかった。そのため、新しい布地さえ用意すればいいだけの被害で済んだ。


「それにしても変な事件だよね〜。誰がやってるんだろ」


「唖倉先生が言うには、僕たちの活動を邪魔したい人物の犯行らしいけど……」


 凛が首をかしげる。そのような人物に心あたりがないからだろう。しかし、夜季は一人だけ、その候補を知っていた。


「暮越……」


「えっ?」


 夜季のつぶやきに、皆が反応する。


「暮越会長が? ヨキ、どうしてそう思うの?」


 同じ生徒会である凛は暮越のことを「会長」と呼んでいる。


「アイツは……こういう行事とかがキライだからな。理由は知らねーけど、中学の時から文化祭の時期が近付くとイライラして周りに八つ当たりしてた」


「は? 八つ当たりって、そんだけでこの嫌がらせ?」


 雛子がキョトンと目を丸くする。


「スーコさん、まだ会長だと決まったわけじゃないよ」


「そうだ。よく考えてみれば、アイツにしてはやり方がセコすぎる。アイツだったら、もっとストレートな暴力に出るはずだ」


 この時の議論は、これ以上発展しなかった。


 その後、歌詞も一応完成し、(そのうちの大半は凛によるものだが)夜季もようやく納得の出来る絵が描け、本番に取り掛かろうとしていた。


 本番1週間前になり、嫌がらせの事件の事も忘れられかけたある日。ついに大きな事件が起こった。


「ヒドイ……ひどいよ……コレ」


 発見者から報告を受け、雛子と夜季は体育館に駆けつけた。


「シャレになんねーぞ……ほとんど私物なのによ」


 映画のラストシーンでのバンド演奏。そのために音楽好きの参加者たちが楽器を持ち寄って毎日練習していたのだが、被害に遭ったのはその楽器だ。生徒達が朝の練習を終えて授業を受けている間に、体育館に置いてあった楽器が壊されていたのだ。


「これは、修理に出してもムリだろうな」


 夜季はネックと胴体が完全に分離したギターを見てつぶやく。


「そんな……なんでこんなこと……」


「? スーコ?」


 いつになく、雛子の声が震えている。


「みんな、練習頑張ってたのに……そのギター、知り合いの人からもらった大事なものだって言ってたのに……」


「おい、スーコ……」


「ヒドイよ!」


 夜季が声をかけると、突然雛子は体育館を走り出した。


「お、おいっ! どこ行くんだ!?」


 雛子は上履きで校庭に飛びだし、追ってくる夜季を振り切るように校舎の後ろに回る。


「どうしたんだ!? スーコ!」


 夜季もすぐに校舎裏に向かうが、雛子の姿はない。周囲を見渡すと、裏口のドアが開いている。


(校舎の中に入ったか?)


 迷わず、そのドアに入って行く。




「なんで……なんでこんなんなるっちゃろ……」


 雛子は、座り込んで顔を伏せる。


 壊された楽器は、生徒の私物だ。自分の企画したイベントのために、喜んで協力してくれたようのに……。さすがの雛子も、この仕打ちには完全に参っていた。


「ハァ……」


 大きくため息をつく。すると、その横に一人の男が立った。


「足、早すぎんだよ。スーコ」


「ヨキ……? なんでココってわかったの?」


 顔を上げると、息を切らせた夜季がいた。


「土の付いた上履きで廊下を走れば、足跡が残るのは当然だろうが」


 夜季は雛子の隣に腰を下ろす。


「……さすがのお前も、ショックだったか?」


「ショックに決まっちょっやん……。みんな楽しそうに練習しちょったとに、こげん目にあうなんて……」


 再び顔を伏せる。


「みんなてげ怒るやろ。ウチがこげなこつ考えたせいで、大事な楽器壊されて……」


「……」


 雛子の愚痴を、夜季は黙って聞いていた。何も言えなかった。


(こいつが落ち込むのもわかるけどよ……。なん、つーか……こういう空気、苦手なんだよなぁ……。ジジィだったら、こんな時に上手いこと言って立ち直らせられるんだろうが……)


「もう、ムリっやちゃろうか? これ以上頑張っても、また邪魔されるっちゃろうか……?」


「あっ? おい、待てよスーコ」


 思わず、夜季は言葉を出す。


「お前、もしかしてあきらめるつもりか? ここまで来といて」


「え……」


「さんざ人のこと巻き込んで仕事押し付けておいて、結局あきらめるっつーのか!?」


 つい、怒鳴るような大声になってしまった。


「……」


 雛子は黙り込んだまま動かなくなった。


(あ、マズい。余計落ち込ませちまったか……?)


 グズ……グズ……と、雛子が鼻をすする。


(? コイツ、もしかして泣いてんのか!?)


 夜季は恐る恐る、雛子の顔を覗き込む。すると……。


「グズ、ふ、ふぇ、ふ……ふぇーくしょん!」


「うわっ! 汚ねぇ!」


 大きな、大きなくしゃみだった。


「グス……ゴメン、ゴメン。最近急に寒くなったかい……」


「お前、紛らわしいんだよ!」


 今度は本当に怒鳴った。


「それはともかく、あきらめるわけないじゃん! ここまで来といて、あきらめるとかあり得ないでしょ!」


「お、おう。そうだな」


 突然の剣幕に圧倒されている。


「ウチは落ち込む時はとことん落ち込んじゃうタチやかい、今はこげなこつしょる場合じゃないと! ヨキ、行くよ!」


「わっ、ちょ……行くってドコだよ!? お〜い、スーコ〜!」


 雛子は夜季の手を引いて階段を駆け下りる。


「とりあえずリン達と合流〜! てゆーかヨキ、手ぇ冷た〜い」


「冷え性なんだよ、オレは! 危ないから手放せ!」


 夜季のおかげ(?)で元気を取り戻した雛子。その姿を、おもしろくなさそうに見つめている人影があった。

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