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SCARLET  作者: 九条 隼
SCARLET:天才たちの話
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人間不信イラストレーター・裏-2

「Shit!」


 微かな光りが黒いファイルを照らしだす。丁寧に机に置かれたそれ。ほこりを払った跡。


「あっ。な、なんちゃって……」

 ごまかしてももう遅い。口が悪かった。ごめんなさい。折角綺麗な言葉を教えてくれたのになぁ。

 あの人に、そっと謝罪。

 それにしても……ああもう。もっと早く気付けばよかった。放置していたにしては綺麗なファイルを睨みつけた。って、終わったことを言ったって仕方無いけど。ファイルの中をぱらぱらめくって、無くなったものが無いかの確認。コンテストとかに出すものじゃないのに、一体誰が見たんだか! こんなもの見たって分からない奴はつまらないだろうに。絵と絵の間には丁寧に開かれた様なクセがつけられており、誰かがすべて見たということが手に取るようにわかる。

 ああもう隅っこに置いてたのに、ご丁寧に埃まで払ってくれちゃって! 絶対埃まみれだったって! 何でわざわざ綺麗にしたし。目立ってるじゃん、バカか! しかも机の上に置くなよ! 他に誰か見てたらどうしよう。てめー家まで殺しに行ってやろうか○○○○!


「……。ふう」

 黒歴史が復活した。

 Be cool,Be cool.落ちつけ、あたし。

 暫く様子を見て何のアクションも無ければ良いんだ。行動に移すのなら、あたしたちに関わるのなら、詮索するのなら殺せばいいよ。簡単なことでしょ? 今のあたしなら、昔よりもずっと上手くできる。とても分かりやすくて、楽だ。

 じわりじわりと冷めていく感覚。身震いする様な高揚感。目の裏に焼きついた、鮮やかな赤色。倒れ伏した薄汚れた男たちに、傍らで立つ、……。


 ふと、ポケットの中の端末が震えた。画面を見ればあの人が柔らかく笑っていて、泣きたくなった。ああ、まるで許されているようだ、なんて。電子のあの人のまえに跪く。貴方に会いたい。貴方に会いたいんですよ。あたしだけじゃないんです。でもきっと、……あたしよりもきっと、マサのほうが。あいつはあれで、一番不安定だから。

 画面に映し出された文字に、小さく笑った。


 少しずつ、あたしも変わってきたのだと思う。仲間の誰でもない名前が映し出されたそこに触れて、そのまま耳にあてた。

 

「……もしもし」

 それでも、少し怖いだなんて思ってしまう。


――黒ちゃん? 夜にごめんね、今平気?

「うん……大丈夫だよ」

 それでも彼女が、あたしと仲良くなりたいだなんて言ってくれるから。あの人が、それでも大丈夫だと教えてくれたから。十分な猶予はあった。突き放す、カウントダウン。じきに訪れるのだろう別れを告げる様な準備とか。

 ああきっと、もうすぐなのかもしれない。何故だか悟ってしまうこの感覚がなんなのか、知っている。何故知っているのかは分からないけれど、脳裏に浮かぶ、あの、悲惨な、情景、とか。……。

――黒ちゃん? 大丈夫? 元気ないけど……。なにかあった?

「ううん」

 嫌だなあ……紅葉さん。ずっと貴方と一緒に居たいのになあ。どうしてかな。なんでだろう。貴方がいずれいなくなるということを、あたしは確信しているんだ。


――そっか……。何かあったら、言ってね。話を聞くくらいなら、いくらでもするんだから。

「うん。ありがとう」

 そうですね。もう、きっといけないんですよね。ずっと貴方の傍に居られることができないというのならば、あたしは貴方がまた笑ってくれるように、ちゃんと一人で立てるようにならなきゃいけないんですよね。

 ミズキちゃんの隣に立つことで背筋を伸ばすのではなく。マサと言い合うことで不安を、恐怖を取り除くのではなく。ユイに支えられることで、一歩一歩進むのではなく。

 あなたの背中を追うことで、生きる意味を知るのではなく。



 やっぱり、そろそろ甘えるのはやめなきゃだめだ。

 親離れだと思えば、いいのよ。

 そうでしょ? 

 とても怖いけれど。とても、寂しいけれど。


 そっと表紙の紙をはがす。名前と学年つきのそれはびりびりにして破り捨てる。一応ゴミ箱に入れておこう……。マサにばれたらめんどくさい。あいつ、そういうとこは意外と細かいんだから。なんて。

 薄い紙の下には昔のあたしたちの姿が描いてある。全員ぼろぼろの服を着て、傷だらけの体で。……「あの」事件の時の、あたしたちだ。

 あんなふざけたことに巻き込まれるだなんて最悪だった。だけど、そのおかげでみんなに会えたから。だから、その始まりを表紙に描いた。あたしたちの、始まりだ。あたしたちはあの時、初めて生きてるんだってそう思えたんだから。

 あたしとミズキちゃんは昔、ぼろぼろになって、綺麗も汚いも関係なく必死に生きてきた。別に過去を恥じたことはないけれど、誇る様なものでもない。人を騙して利用して、あの時は信頼なんて言葉知りもしなかったし、知っていたとしてもきっと鼻で笑っていただろう。



 でも、あれ以来は違う。あの事件が、あってからは。

 今ではもう、誰もあの事件のことは口にしないけれど。




――でも。

 もしも誰かが核心に触れたその時の覚悟はもう、出来ている。



 窓を開けて、ファイルに火を付けた。




 「可哀想」なあたしとは、ここでさよならだ。

 




 きっとみんな、覚悟はできてるんでしょ?



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