17.商売
ノアは石つぶてを入れる袋が欲しいと思った。
弓矢を使う人が背中に背負っている筒のように、ちょうどいい石を持ち歩きたい。
いつでも足元に石が転がっているとはかぎらないのだ。
今ある袋は使用中だったり、大きさが合わなかったりする。
「針と糸が欲しい」
ノアは強く、そう思った。
自然界で調達できないものがあるのだ。
自力で作れる物もあるが、針は難しい。
魚や鳥の骨で代用できないかと思ったが、糸を通す穴が開けられない。
ノアが盗賊に襲われた街道は、商隊が行き来している。
商人が通りかかったら、何かを売るのはどうだろう?
いや、お金よりも物々交換がいい。
果物か水……ノアが調達できるのは、そんなところか。
女の子だと舐められるし、捕まって奴隷にされるかもしれない。
ノアは髪の毛をバッサリ切った。
「ナイフだとガタガタになるなぁ」
こちらの世界では、ハサミなんて見たことがない。もしあったとしても高級品だろう。
ノアは切った髪の毛を布で包んだ。
編めば紐になる。前世の黒髪だとオカルトチックだが、ピンクの髪ならおしゃれに使えるかもしれない。
鳥のヒューイが、商隊が近づいてくると教えてくれた。
まだ距離があるうちに、果物を取りに行く。
ダチュパのミューの背中に乗り、いくつくらい取るか考える。
あまりたくさん持っていくと怪しまれるかもしれない。
近所から来たと言っても、それらしき集落がないのだ。
子どもが一人でいるなんて、盗賊の偵察みたいであやしい。
「顔見知りの商隊だったら近づく。そうじゃなかったら、帰ろう」
針と糸は最優先事項ではない。
もし身柄を拘束されたらまたギフトを使えばいいが、それは諸刃の剣だ。
動物たちが、普通では考えられない動きをしてノアを助けるのだ。
神の遣いとして祭り上げられるか、悪魔だと殺され牢になるか……。
その場は逃げられても、目撃者が誰に漏らすかわからない。
偉い人が大軍を派遣して、ノアを捕まえようとしたらどうなる?
少なくとも平穏な生活ができなくなる。
できるだけ目立たないようにしなければ。
「あ、水場で待ち構えていればいいかな。下働きと接触して、貴重品を管理する上級使用人に話を付けてもらえばいいんじゃない?」
「ああ、それなら知り合いだと思うよ。見たことのある顔だった」
ヒューイがそう請け負ってくれた。
「誰かわかる?」
「名前も知らないし、そこまではわからないよ」
ヒューイが笑った。
それもそうか。
ノアだって、どんな商人がいるかわからない。
父や兄なら荷車を見るだけで、どの商隊か判別できるかもしれないけれど。
ガラゴロと音を立てて、荷馬車が近づいてきた。
ダチョウのようなダチュパではなく、馬を使っている。
ということは、相当な金持ちだ。
荷馬車はたくさん運べるけれど、買うのにもメンテナンスにも金がかかるというデメリットがある。
途中で壊れたらすぐに修理しないと、盗賊に狙われる。
ダチュパのように全速力で逃げることができないから、しっかりした護衛が必要だ。
空の樽を降ろし、使用人たちが水を汲み始めた。
泥水だが、樽なら泥が沈殿するまで待って上澄みを飲むのだろう。もしくは、きれいな水はすでに積んであり、馬に飲ませる分かもしれない。
ノアはミューに水を飲ませるふりで、水辺に立っていた。
「おい、ボウズ。そいつに積んでいる果物を売っちゃあくれないか?」
目ざとい使用人が声をかけてきた。
奪い取ろうとしないあたり、使用人の教育が行き届いている。
「いくつ欲しいんだい?」
ノアは意識しては低い声で答えた。




