問題児の彼女には、理由があるらしい
放課後の空気は、どこか落ち着かない。
静かなはずの教室が、妙にざわついている気がする。
(関係ない)
そう思うのはいつも通りだ。
関わらない。踏み込まない。思い出さない。
それが一番楽だ。
——思い出さない。
それは昔からそうだったわけじゃない。
ただ、そうしておかないといけない“何か”があった気がする。
けれど、それ以上は考えない。
考えないようにしている。
廊下に出ると、担任に呼び止められた。
「少し付き合ってくれ」
嫌な予感がした。
それでも断る理由はない。
職員室の前まで来ると、中の声が聞こえた。
「また同じことだ」
「進級も危ういぞ」
その中心に、彼女がいる。
問題児。
いつも通りのはずの光景。
なのに、胸の奥がわずかにざわつく。
(……なんだ)
灰色が濃くなる。
視界の輪郭が少し曖昧になる。
「別にいい」
彼女の声は軽かった。
その一言だけで、すべてを切り捨てているような声。
普通なら、それで終わる。
関係ない。そう言って終わるはずだ。
なのに。
「……本気で言ってるのか」
気づいたら、口が動いていた。
教師も、彼女もこちらを見る。
一瞬、空気が止まる。
(まただ)
関わるつもりはなかった。
ただ、目の前の“投げ捨て方”が、どこか引っかかった。
彼女は少しだけこちらを見る。
「なに」
「別にいいって、何だよ」
声が少し強くなる。
自分でも分かる。
これはただの正義感じゃない。
もっと、よく分からない違和感だ。
「理由くらい、あるだろ」
「ないよ」
即答だった。
迷いがない。
その瞬間、視界が揺れた。
灰色が一段、濃くなる。
(……まただ)
女子と深く関わろうとすると、いつもこうなる。
何かを拒絶するように、世界が色を失う。
でも今回は違った。
灰色の奥に、何か“引っかかるもの”がある。
(……違う)
これは、ただの拒絶じゃない。
「関係ないでしょ」
彼女の声。
その一言で、現実に引き戻される。
「そうだな」
そう言うべきだった。
いつもなら、そうして終わる。
なのに。
「……関係ない」
言葉は出たのに、どこか引っかかる。
その瞬間。
頭の奥で、ほんの一瞬だけ何かが揺れた気がした。
——女子。
——視線。
——誰かの声。
「……っ」
すぐに消える。
考えるな。
思い出すな。
そう決めている。
「行くぞ」
自分に言い聞かせるように、背を向ける。
彼女は何も言わなかった。
ただ、少しだけこちらを見ていた。
その視線だけが、妙に残ったままだった。
廊下を歩く。
灰色はまだ消えない。
むしろ、少しだけ濃くなっている。
(……思い出さない)
それでいい。
それでいいはずだ。
なのに。
なぜか、息が少しだけ重かった。
読んでいただきありがとうございます。
少しずつ、主人公の“いつも通り”が崩れ始めています。
まだ本人は気づいていないようですが、変化は確実に進んでいるようです。
次回もよろしくお願いします。




