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ダークストーン ~【心臓喰らいの復讐譚】神殺しの魔女と不死の傭兵~  作者: 花見川さつき
第二章 ロイ編

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第050話 狙われる不死者

 バルディアでの激闘から一夜が明けた。

 街は徐々に落ち着きを取り戻しつつあったが、破壊されたロッジや温泉地の爪痕は深く、復興にはまだ時間がかかりそうだった。


 アベリーたちは街外れにある穏健派の隠れ家に身を寄せ、今後の方針について緊急の対策会議を開いていた。

 薄暗い部屋には、アルクトロス、タラマキオン、アベリー、そしてロイの四人が顔を突き合わせている。


 アルクトロスは深刻そうな表情で口を開いた。


「黒い化け物が暴れ回ったと街中大騒ぎだ。今までも過激派の連中は派手なことをしていたが、今回は規模が大き過ぎる……もうこの世界に異能の力があることは知れ渡るだろうな」


「別によくないか? なんか困ることでもあんのか?」


 ロイが呑気な顔で尋ねる。それに対して呆れ顔のアベリー。


「困るに決まってるでしょう。異能の力が著しく治安を乱したんですよ。権力者にとって無視できない脅威と認識されたら、私たちは過激派以外の勢力からも追われることになるんですから。理解してますか?」


「え? でもオレたち、別に悪いことなんてしてないだろ」


 タラマキオンが困り顔で言う。


「彼らからしたら、僕たちは等しく化け物なんだよ。その言い分が通る可能性はすごく低いと思うよ」


 アルクトロスは深くため息をついた。


「はぁ……この騒ぎはすぐに王都に伝わるだろう。そうなれば、そのうちバルディアに調査団が送られてくることになるかもな。あんたらはそれまでにここを出るんだろ?」


 アベリーは頷く。


「ええ。過激派の戦力と規模を考えると、私たちだけでは心許ないですから。対抗するには大きな後ろ盾が必要だと思います」


「当てでもあるのか?」


「ノーザンデイル辺境伯に嫁いだ姉を頼ろうと思っています。彼らは大きな軍隊を持ってますから。彼らを味方につけることができれば、無数の信者を抱える過激派に対抗できる力となるでしょう」


 ロイが疑いの目でアベリーの顔を見る。


「そうかな〜。どんなにデカい軍隊持ってても、ドラゴンが出てきたら皆殺しにされるだけだと思うぞ?」


 アベリーは少し不安げながらも、正面を見据えて答えた。


「ドラゴンに対しては一つ、策があります。まずは敵の最大戦力であるドラゴンを倒すことが我々の最優先事項ですね。あれをなんとかしなければ、我々に勝機はありませんから。ノーザンデイルの軍隊は、その後のための戦力です」


 タラマキオンが言う。


「確かに、ドラゴンはアルガイアのどんな軍隊でも太刀打ちできないと思う。その策とやらが成功することを祈るしかないね」


「戦力と言えば……お前さん、『身体強化』の漆黒石をいきなり飲み込んだらしいな。まあ、あんたが倒した敵の石だからな。我々は口出しせんが……本来なら、精神に異常が出てもおかしくはないんだぞ。体調は大丈夫なのか?」


 アルクトロスが腕組みをし、呆れたような視線をロイに向ける。

 話題の中心であるロイは、けろりとした顔で答えた。


「ん? ああ、昨日はちょっと腹を下したけど、一晩寝たら治ったぜ。それに、見てみろよこれ」


 ロイは近くにあった鉄製の燭台を指先でつまむと、まるで粘土細工のようにぐにゃりとひん曲げてみせた。


「凄いだろ、これ。この力があれば……フタが固くて開けられない瓶があっても大丈夫だ!」


「……良かったですね」


 アベリーは頭を抱え、深いため息をついた。

 不死の能力に加え、怪力になれる身体強化。戦力としてはこの上なく頼もしいが、その能力者がロイであることに若干の不安を覚えるアベリーだった。


 だが、現実は待ってくれない。

 ジャックの目的は、母マルファーの復活。そのためには、ロイの腹の中にある石が最後の、そして最も重要なパーツとなる。


「とにかく。ロイ、あなたの中にある『不老不死』の石を手に入れるためにこれからも敵は襲い続けてくるでしょう。敵にとって、あなたが最優先の標的なんです。くれぐれも単独行動は……」


「小難しい話はもういいって。だいたい、敵さんだって昨日の今日で襲ってこないだろ。俺は腹が減ったから飯食いに行くよ」


 ロイはアベリーの言葉を遮った。


「ちょっとロイ! 今の話、聞いてました!? あなたが狙われてるって話ですよ!」


 アベリーが慌てて立ち上がるが、ロイは聞く耳を持たずに席を立った。


「へーきへーき。向こうから来てくれるなら手間が省けるだろ? 返り討ちにして、本拠地まで案内させてやるよ」


「そういう問題じゃ……!」


「じゃ、この街で一番美味い店探してくるわ! 会議の続きは君たちだけで楽しんでくれ給え!」


 ロイはひらひらと手を振り、制止するアベリーたちの声を背に、部屋を出て行ってしまった。


「……やれやれ。あの馬鹿につける薬はないな」


 アルクトロスが重い溜息をつき、部屋には気まずい沈黙が残された。

 だが、この時の彼らはまだ知らなかった。

 その慢心が、敵にとってこれ以上ない好機を与えてしまうことを。

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