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大事。 1

「あ、リコ様」


「ほんとだ。リコ様、お帰りなさい」


「ああ」


 一度魔力が戻って来ると回復は早く感じられた。

 カイルがルーシズの王子と不毛なやり取りをする頃、リコは帰る前に一度行っておきたいと思っていたエルフの村に一人訪れていた。

 真層界ではカラプティアにいるよりここに来た方が落ち着くのは、やはり同種がいるからだろう。


 リコにとっては憧れに似た気持ちがないわけではない。

 両親の間から生まれ、同種の中で育つということに。

 集落を行き交うエルフたちの中に、時折自分が歩いている姿を想像することもあった。

 

 カラプティアに来て間もない頃、エルフの家臣が息抜きのために同種のいるエルフの村を案内したことがきっかけ。

 銀髪と長い耳、銀に青を落としたような瞳のエルフは、他種族とは距離を置きたがる。

 

 新しい魔王がエルフと聞いた彼らは最初こそ遠巻きだったが、自分らとなんら変わらないと気づけば同胞として迎えてくれた。

 魔王という存在である以上そこにはどうしても一線が引かれたが、どちらかと言うとリコの方が壁を作っているようだった。

 重圧だなんだと言う前に、そもそも彼女は他者との関わりが苦手のようだった。


「リコ様っ」


「ラウラ、リゼル」


「お帰りなさい。戻ったって聞いたから、いつ来るのかなって思ってたんだ」


「あれ? 勇者は一緒ではないの?」


 後ろから声をかけて来たのはエルフの村でもリコと年齢の近い女の子二人。

 リコが疲れた心を休めに来た時、姿を見ると声をかけてくれる。

 

「来た翌日には戻った。彼には彼の生活がある」


「なんだぁ。ちょっと見てみたかったのに」


「見ても別に面白くはない。話せばそうでもないが」


 今はタリアの花が見ごろだよと誘われ、紫の小さな花が垂れ下がるパーゴラの下で、彼女たちは花の香りを感じながらベンチに腰を降ろした。

 太陽の光が入り込む余地もないほど密集して咲く花のせいで影になり、少しだけひんやり感じる。でもそれが清浄な空間を作り出しているようで、リコは肺の中をタリアの香りで満たした。


「ねえリコ様、ラウラはもうすぐ結婚するのよ」


「そうなのか。それはおめでとう。この村の者なのか?」


「いいえ、海の国メアよ」


「随分遠いな。どこで知り合ったのだ?」


「この村に彼が行商で寄った時に。メアで商いの勉強していて、今度主人からお店を一つ任されるから一緒に来ないかって」


「エルフで商人とはなかなか珍しいな」


 社交的とは言えないエルフは多くのヒトと関わる商人にはあまり向かない。

以前酔っぱらい事件を起こした店も城下に出店しているのは珍しいと言えた。

 友人の心を射止めたエルフは元々メアで生まれ育ったらしく、エルフらしくない陽気でお喋りな性格らしい。エルフは男性も美しいのでラウラは女性客が気になるようだ。


「多分次にリコ様が来た時にはもう私はメアに行っていると思うの。だから今日会えてよかった。リコ様、気軽に会えなくなるのは寂しいな」


「私も話せる相手が減るのは残念だ」


「リコ様、人間界ではそういう仲間はいないの?」


「あの勇者の男、ちゃんとリコ様のこと大事にしてくれてる?」


「大事に?」


「だってリコ様たった一人慣れない人間界に行ったのに、頼みの勇者が大事にしてくれてなかったら同じエルフとして弓で殴ってしまいそう」


 弓で射るのではなく殴る。つい手が出てしまうほど理性を失ってしまう様子を例えたエルフ独特の表現。

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