目の上のたんこぶ 5
「なるほど、ルーシズ王国は最初に人間を率いて真層界を脱した魔王の子孫てわけか。じゃあそいつはレイピアを装備してたんだろうな」
「魔王だと? なんの話だ?」
「ルーシズの伝承にはなんて書いてあった? 今俺が知る勇者伝説はどれも真実からかけ離れたことばかりだ」
「真層界に捕われし人間をその魔の手から救うため立ち上がった勇者が民を引き連れ脱出、ルーシズを最初の人間の地とし繁栄させた……その辺のガキでも答える内容だ」
「悪いな俺の出身はもっと北のド田舎ニキタリアなんだよ。若干伝承が違ってな。まあそんなのはどうでもいい。どこでも全員もれなく勘違いしてるが、真層界から人間が脱したのは間違いないし率いた人物がいたのも間違いない。だが率いたのは人間族の魔王だ。死後勝手に勇者と呼ばれるようになった」
「何を!? では我々は魔王の子孫だと言うのか!? 貴様は魔王だと言うのか!?」
「子孫かどうかは知らん。子を成して脈々と継がれてるならそう言う意味では子孫かもな。今じゃもう真層界でも勇者は勇者って言われてるよ。魔王と勇者の成り立ちが微妙に違うからな」
ルーシズの王族は多かれ少なかれ、自分たちが勇者の直系であり最初の人間が築いた王国の子孫であることを誇りに思っている。
それがもし魔王となれば由々しき事態だ。
そもそも目の前の王族を前にしてもふざけた態度の男が勇者かもしれないというだけでも許せない。
「答えを聞いていない。貴様は勇者なのか」
「お前さんたちが期待する存在じゃない」
それは勇者ではないと言う事だろうか。それとも伝承と事実は違うということなのか。
オーランドは前者と捉えたようだった。
こんな男が勇者であってはならない。そんなこと許されるはずかない。
勇者はやはりルーシズの王族から出なくてはならない。
それはウィルだ。既に国内で英雄視されているウィルが演じるにちょうどいい。あとはカイルがいればあの化け物のようなモンスターがいても押し付けられる。
オーランドは急に態度を変えた。
「いいだろう。お前に一つ俺から極秘の任務を与えてやろう。お前の強さはウィルからの報告で十分わかった。その力、我が王国のために使わぬか」
「俺が“はい”って言うと思うか?」
「報酬なら勿論出すぞ。あんな命がけの救助隊などしていなくてももっと楽に得ることが出来る。人々から尊敬の念を集め、金も自由、美女も自由だ。悪くないのでは?」
「悪いな、金も美女も俺の手元にはある。あんたらの伝説ごっこに興味はない」
「“ごっこ”とは心外な。我々は人間を奪い返しに来る魔王を打とうという崇高な目的がある。その一団に加われるのだ。人間として名誉あることだと思わないか」
恐らく何を話しても平行線であろう王子にカイルは溜息を吐くと、何も言わず背を向けた。元々関わりたい連中ではない。これ以上は時間の無駄だ。
「待て、どこへ行く」
「魔王は人間を奪い返しになど来ない。そんな目的で存在してるんじゃない。そのそもお前らが真層界に行けたとして数日もたてば魔力に当てられ死ぬぞ。これ以上無意味な勇者ごっこはやめてさっさと大陸に戻るんだな」
オーランドが小さく「クソッ」と毒づくと、天幕にいた兵士が一斉に槍を向けた。
「お前の力は是非とも欲しい。このまま返そうとは思わない」
「めんどくせえ連中だなほんと。俺だって流石に王族相手に刃を向けようとは思わない。このまま帰らせてもらえねえか?」
「伝説の武器を持てる力は是非とも利用したい。返すわけがなかろう」
「本音が漏れてるぜ」
カイルはそう言うとテイムフィールドを展開した。
ほんの一秒だけだったが、その場にいた全員が頭を押さえうずくまるには十分だった。
「貴様、なにを……」
「なんだみんなして体調不良か? お大事にな」
そう言うと今度こそカイルは天幕を出ていった。




