目の上のたんこぶ 4
ウィルフレッド:ダンジョン島に一番近いルーシズ王国の第二王子。常人の中ではその剣は巧みで騎士としての能力も高い方。ただし幼い頃より父や兄の言いなりになる傾向にある。自分が勇者ではないことは百も承知。
オーランド:ウィルフレッドの兄。戦闘能力は低いが父譲りのカリスマ性があり臣下や民の信望は厚い。野心が強く、狡猾。そういう意味では王者の資質がある。
そしてこの会話から十日後、ルーシズ王国の自称勇者ウィルフレッドは、本当に本隊を率いて再上陸した。
さらに、次期国王であるその兄オーランドも。
ウィルフレッドに与えられた命は伝説の武器の発掘、そして魔王討伐隊の編成。
オーランドは総指揮官。実際はただウィルフレッドを傀儡にしているだけだが。
彼らは兵を率いて広場にやって来ると、露天商を追い出しそこに勝手に陣を張り始めた。
駐屯兵たちの宿舎で王子たちは過ごすが、ダンジョンの目の前に陣を築き兵士たちが伝説の武器を探し魔王討伐のための拠点としたのだ。
露天商や冒険者と揉める兵士との間に立ったのはギルドマスターと商人をまとめ上げる魔法具店の老店主。彼は普段は島での暗黙のルールの元問題が生じたときに調停に入る程度しか介入しないが、無謀な新参者や今回の王国のように権力を振りかざす連中が現れた時には商人の代表者として顔を出す。
ギルドマスターも老店主も今回の王国の出兵の規模の大きさに、ひとまずは黙って下がるよう島民に言った。
ギルドマスターはカイルが王国を敵に回すようなことを言っていたことを考えると、もしかしたらダンジョンで大規模な争いが起きるかもしれないと考え、冒険者を守る意味で下がらせたのだ。老店主もそれに同意し、無理に逆らう必要はないと判断した。何もなくても、先日のドライアド戦を見れば彼らが思うように攻略できるとは思えない。
カイルはそんな状況を少し離れた所で傍観していた。
しかし自称勇者のウィルフレッドがカイルの姿を見つけると、兵士が彼を天幕へと連行した。
「これはこれは勇者サマ、随分とご丁寧なご招待痛み入ります」
天幕に入ったカイルは自称勇者のウィルフレッドと彼に似たもう一人の男を見ると太々しくもそう言った。
「口を慎め。貴様先日のドライアドとの乱戦の際、妙な武器でもって不死身のモンスターを倒したそうだな」
「あんたは?」
「口を慎めと言ったぞ! 俺はウィルフレッドの兄で次期国王、ルーシズ王国第一王子のオーランドだ。カイルと言ったか? 救助隊隊長だそうだな」
「腹の探り合いとかいらねえから本題を聞かせてもらおうか」
王子二人を前にしても大きなカイルの態度に、やたらプライドの高い兄は奥歯をギリっと噛んだ。
「いいだろう。単刀直入に聞く。貴様は伝承にある勇者か」
「仮にそうだとしてお前さんたちにそれが分かるのか?」
王子二人は同時にカイルの腰に目をやった。
そこには赤と金の装飾の優美な造りのサーベルが下がっていた。
「その腰のサーベル。同じ造りのレイピアが王宮の中庭に安置されている。誰も動かすことが出来ないから王宮はその剣を取り囲むように設計されている。そしてそのレイピアはルーシズ王国の古い伝承にある勇者の剣だ。貴様は同じ造りの剣でウィルでも斬れなかった化け物を倒した。そうであろう?」
各地に勇者伝説があり人々の中には宗教的な信仰をする輩もいるのは知っていたが、ルーシズ王国に剣が安置されているのは知らなかった。
カイルが今の人生とは違うもう一つの記憶を辿った。




