月は酒の肴か想い出か 1
カイルが人間界に戻りドライアドの一件で肩を怪我してから数日。
彼はシェアハウスのリビングで、カーテンを開け放した窓から覗く月を見上げていた。手にはリコの土産である酒がある。
土産の中にあった真層界のオリーブウッドで作られたゴブレットには、エルフの村で作られた白ワインがまだ半分ほど入っていた。
エルフの白ワインはあまり甘くなくスッキリとしていてやや辛口。そのまま飲めば食事の邪魔することなくほんのりと香る葡萄が料理を引き立ててくれそうな一杯だった。
オリーブウッドはシトラスの香りがして、このゴブレットで飲むと華やかさが増しデザートワインに近い楽しみ方が出来る。
なかなかいいものを寄越したなと思いつつ飲んでいると、気が付けば一本空けていた。
「隊長は月をつまみにするようなロマンチストだったにゃ~?」
夕食の片付けが終わったキャスが、窓から外を見ながら言った。
怪我をしてから何かとニーナやキャス、ついでにフィルが身の回りの世話をしてくれるので、左手が使えなくてもそんな不自由に感じることはなかった。
ハーキスとウォーレンが本部で夜勤に当たっているので、カイルはもう少しまともに肩が動かせるようになるまでシェアハウスの方で寝泊まりしていた。
と言っても、戻ってからのウォーレンの処置と魔法医の腕が良かったので、あと数日もすれば任務に戻るつもりでいた。
「実は俺の前世は狼の獣人なんだ」
「狼の獣人と月は関係ないにゃ。あるのは人狼にゃ。びみょ~に似て非なるものにゃね」
もう一本何か空けたくて、カイルは冗談を言いながら物色した。
だけど土産が入っていた袋がひょいとキャスに取り上げられる。
「傷に触るにゃ~。隊長は飲みすぎにゃよ~」
「へいへい、わかったよ。今日もありがとな」
「素直にゃね。早く治さないとリコが戻ったら怒りそうにゃ~。それじゃあおやすみにゃさい~」
「おやすみ」
キャスが自室に入った音が聞こえると、カイルは懲りずに土産の中からウイスキーを取り出した。
ラベルに雪山の絵が描かれている。イシャス産のものだった。
グラスを取って来るとまずはそのままストレートで楽しんだ。
かなりスモーキーな癖のある香りだったが、カイルがよく飲んでいる人間界の銘柄もスモーキーなタイプ。味わいはかなり違うが、彼は気に入ったようだった。




