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「重たきゃ半分持ってやろうってのに」
カイルは離れていく姿にそう言ったが、もう聞こえる距離ではなかった。
リコは一人つまらない表情で歩いていた。心なしか歩調は速い。まだ少し怒っているのだろう。
あんな手取ってしまえばどこに連れていかれるか分かったものじゃない。
閉じていた目を開けたとき、とんでもなく安らかな場所だったらと思うと怖い。そんなところで落ち着いてしまえば、きっともう立てなくなる。
私はダンジョンを守り真層界を導く魔王。
一人しかいない今、立ち止まることも安らぐことも許されない。
孤独でも闘わねばならない。
カイルはそんな安らぐ場所にいとも簡単に連れてってしまうような男だ。
迂闊に手など取るわけにはいかない。
そんなことを考えているうちに目的地に着いた。
ここはダンジョンが変化中に開かれるバザー。
いつもダンジョン前広場で商売をしている露天商とは違い、大陸からダンジョン島の住人向けに商品を売りさばく市場だ。いつも大量に冒険者を吐き出す船が停泊する港では、今日は様々な大陸の商品を降ろし港前は人と荷物でごった返している。
市場では、一儲けするまで島を離れない大陸の冒険者や島の住人が主に嗜好品や高級品を買い求める。
日用品や冒険に必要な一般的な武器防具は島で事足りているので、それ以外の品が目当てとなった。
リコが人間界に来てからの初めてのバザーは、顔には出さないが実は少しだけ楽しみでもあった。昔カイルが来た時に似たような生活をしているようで微妙に違う文化の話は興味深かった。今日はそれを生で見られるという事になる。
リコにとってダンジョン産の物は真層界で見慣れている物なので、普段の露天商が売買する品はそこまで面白みのあるものではない。
バザーなら大陸の、人間界のより人間らしいものが見られる。
リコは所狭しと並んだ小さな天幕の群れに入る前に、フードを目深に被り直した。
銀髪や長い耳はエルフだとすぐにわかる。
人間界でまず見る事のないエルフが歩けば注目の的だ。リコはあまり他者とは関わりたくはなかった。
「おいおい、解説を置いて行くなよ」
「別に見ているだけでもいい……あの店はなんだ? ドライハーブか?」
見ているだけでいいと言ったのに、早速目の前の天幕を指差して聞いてくる。
カイルは「結局聞くのかよ」などとは言わず、リコが興味を持ったらしい薬屋の前で立ち止まった。
「ドライハーブには違いないが薬屋だな。真層界とあまり変わり映えしないんじゃないか?」
「そうだが、効果が同じか気になる」
そう言うと手近な一束を手に取ってにおいを嗅いでみる。
鼻の奥を突き抜けるような清涼感ある香りはミントに似ていた。
「見た目もにおいもミントに似ている」
「そりゃミントだな」
「なんだ同じなのか。同じものもあるのだな」
ちなみに店主に聞いたところミントの効能は真層界と同じ胃の症状改善と集中力向上。魔法を学んだばかりの者が利用することが多い。
何か探しているのかと聞いてくるので、ダンジョン産ではなく大陸産の物がないか聞いてみる。