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「なんだと!?」
王子が驚愕しつつもまた剣で切りつける。
太刀筋は悪くないが、相手が悪い。きっと人間相手ならいい戦いをするのだろう。
成り損ないは切られてもすぐに修復してしまい、切った感触もまるで粘土のよう。
王子は自分の剣と相手を交互に見ると、後ずさりした。
刃には血とも脂ともつかない何かがべっとりと付いていて、もう使い物にならなそうだった。
「普通の武器じゃ無理だ! 本当に勇者ならこれを使え!」
カイルは使っていた大剣を地面に突き刺すと、自分はイェディルから預かったサーベルを抜いた。
血のりらしいもので使えなくなった剣を打ち捨てると、王子が大剣に手をかける。
「!?」
カイルが軽々振るっていた大剣は、地面からぴくりとも動かなかった。
意味がわからず両手に力をこめるも、髪の毛一本ほども動かない。
「なんだ!?」
「勇者ねえ……」
どうやら王子にはレリックが扱えないらしい。
万が一自覚していない本物である可能性を考えてレリックを与えたが、あの常人らしい戦い方ならばそうだろう。
カイルには彼が偽物なことが一目瞭然だった。
カイルは王子は放っておくことにし、手にしたサーベルで成り損ないに対峙した。
以前の泥人形よりは確実に強い。
カイルを新しい敵と見なした成り損ないは、両腕を刃物のような形に変形させると、予備動作も無しにカイルに走って来た。
両腕の剣を叩きつけるようにカイルに振り下ろした成り損ないは、奇声を上げ体から膿を垂らしながら力技でカイルを押す。
カイルはサーベルでその両腕を受け止めたものの、あまりの圧に次の動きが出せない。
魔法で気を逸らしたいが、気を抜くと受け止めたサーベルごと切られそうだった。
「クソ……馬鹿力め……」
イェアアアアア
成り損ないが言葉にならない雄叫びをあげる。
その声に呼応するように、カイルの後ろにいたドライアドが動いた。
身動きの出来ない状態の彼に対し、無慈悲にも鋭い枝を突き出した。
「ガッ……!」
カイルの左肩から枝が生え、そして引き抜かれた。
「がはっ…!」
自分の左肩から嫌な音が聞こえ、ドライアドの樹液のように赤い液体が溢れた。
両手で攻撃を支えられなくなったカイルがたまらず地面に片膝を着く。
成り損ないは両手を上げひと際大きな奇声を上げた。
カイルの苦しむ姿に歓喜の舞をしているのかと思えば、この成り損ないはかなりヒトに近いのかもしれない。
だが留めを刺さないのは愚かとも言えた。
カイルは受け止める必要がなくなった隙にリコが以前泥人形にしたのと同じように光の縄で成り損ないを絡めた。リコよりその線が細いのは勇者と魔王のではなく人間とエルフの魔力の違いからだが、それでも一瞬は稼げる。
喜んでいるらしい成り損ないは縄に縛られたと気づくと、咆哮を上げて断ち切ろうとした。
しかしそれが出来るまで当然見ているわけもなく、隙だらけの体のど真ん中にカイルのサーベルが突き立てられた。
咆哮が悲鳴に変わる。
成り損ないの体に埋め込まれたサーベルは引き抜くことができず、泥人形のようにすぐに灰になる様子もない。
カイルは勇者に渡そうとした大剣を動く右手一本で引き抜いた。
手首を返し大きく円を描くと、剣の重さを使って真っすぐ振り下ろした。
赤い体が二つに分かれ、そこから灰になると地面に小さな山を作って消えた。
山に残った大事なサーベルを拾うと震える手で鞘に戻し、そのまま左肩を押さえる。
出血がかなり多いのは見なくてもわかった。




