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「あれっ? 隊長なんで? こいつらくらいテイムできるっすよね?」
「普通じゃねえって言ったろ」
「え、普通じゃないってそういう意味だったんすか?」
隊長がテイムしてしまえば一件落着と思ったハーキスがあからさまにがっかりする。
ギリギリの攻防は正直そろそろ終わりにしたい。
「なんだよ期待外れだな」
「悪かったな」
「あとあそこで戦ってる煌びやかなやつ、勇者らしいっすよ」
「あ? 勇者?」
お互いにドライアドを枯らしながらカイルが一瞬目をやると、金銀宝石のついた鎧を纏う若い男がドライアドに囲まれているのが見えた。
「本当なのか?」
「さあ……自称なんで」
「アイツ疲れてるな。お前ひとりで踏ん張れよ」
「え、ちょ……うわっ」
カイルは目の前のドライアドを叩き切ると、背中ががら空きになってしまったハーキスは放っておき推定勇者の元へ向かった。
彼もなかなかの数を倒したようだが、弱点を知らなかったのか大分無駄が多かったようだ。
いかにも王子な綺麗な顔には汗が滴り、息はかなり上がっている。
カイルが横から連続で三体の敵を枯らしたが、王子はそんなカイルを睨みつけ怒鳴るくらいの気力は残っていたようだ。
「なんだ貴様っ! 助けなどいらぬ!」
「お前さん勇者だって?」
「そ、そうだ! クッ、なんでこいつら数が減らない!?」
「与えられた役割は?」
「は? なんのことだ?」
「なんでもねえ。弱点は額の中の果実だ。赤い樹液が出れば傷がついた証拠。そのまま枯れるぞ」
「分かっている! ……なんだあいつは!?」
随分叫ぶお兄さんだなと思いつつ目線を追うと、人の形ぽい何かが周辺の木に倒れ込むように手をついて回っていた。
いつぞやの泥人形よりは形が人らしいが、筋肉組織が丸出しのような赤い体は、よく見れば膿のようにどろどろと溶けかけていた。
目の部分と口の部分が落ちくぼみ、人まであと少しという感じがする。
その黒い口からは嘆き悲しむような叫び声が漏れていた。
「マジか……成り損ない」
ドライアドがやたら多く、その勢いも衰えない理由がこれでわかった。
あの成り損ないがドライアドを浸食している。
成り損ないと同じく全てを憎む存在になったドライアドは、痛みも恐れもなくただひたすらに生者を襲う。
「もしやアレが原因なのか!? おのれ!」
「おいっ」
その読みは間違っていないが、王子はドライアド戦から離脱すると一直線に成り損ないへと向かっていった。
恐らくかなりいい剣を使っているかもしれないが、そんな人間用の武器で成り損ないに適うはずはない。
王子が背後に迫ってもまだ浸食を続ける成り損ないの背中に一閃を浴びせたが、それは僅かに体を揺らしただけで剣でできた筋はすぐに埋まってしまった。




