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「クッソなんて数だよ」
ドライアドの心臓部は幹に浮き出た顔のようなものの額部分にある。
そこを割ると中に熟れた果実のような何かが入っていて、それを傷つければ枯れるのだ。
枝を切り落とすだけでは動きが収まらないので、ハーキスはやりたくはないが弱点を狙うことにした。
やりたくない理由は、ハルヴァードが抜けなかった場合に他の枝の餌食になりかねないから。
それでも一体ずつ仕留めて行かねば収まることがなさそうなこの状況。彼は雄叫びを上げながら得物を振り上げた。
「うおりゃああ!」
木にしてはやたら水っぽい音がして、正面のドライアドの額が割れた。
隙間から赤い樹液のような物が出て来くると、あっという間に干からびて立ち枯れた。
案の定すぐに抜けないハルヴァードを足を使って抜き取り、伸びてきた他の枝を薙ぎ払う。
次々枝の攻撃を切り落とし、攻撃の数が減ったところですかさず額を割り、また足で押さえ――
「クッソ、かてぇ!」
武器がなかなか抜き取れず、後ろに迫る気配に振り向きながら、足に装着したダガーを抜き取った。
それで切りつけることは出来ず、叩きつけてくる枝を受け止めるので精一杯だった。
力勝負で押され、踏ん張りの利かなくなったところに他の個体の枝が薙ぎ払われた。
「ぐぉっ……!」
腹に強烈な一撃を受け、背中から地面に倒れてしまった。
ハルヴァードが刺さったままの立ち枯れた木と、一斉に迫る木の枝が見えた。
反射的に頭を覆った時、水っぽい音と共に地面に何かが落ちる音が聞こえた。
戦況の変化を感じすぐに目を開くと、そこには頼りになる人物の姿があった。
「隊長!」
「あぶねえな何やってんだ」
彼はハルヴァードを引き抜くとハーキスに渡し、目の前のドライアドの脳天から一気に大剣を振り下ろした。
額から赤い樹液を吹き出しながら、真っ二つになった顔が枯れていく。
弱点を突かなくてもその攻撃ならどの個体でも無力化できそうだった。
「助かった……どうしてここが?」
「お花ちゃんたちが怯えて訴えて来た。こいつら普通じゃねえ」
カイルが顎をしゃくる方を向けば、寄り添って怯えるアルラウネがいた。近くでドライアドが暴れると、しゅっと花の蕾に籠って姿を消した。
「そうなんすよ! 全然怯まなくて」
「お前一人か?」
「フィルがあそこに」
カイルが奥を見ると、木陰で怯える――などということはせずに、必死に逃げようとする兵士を草原の方に誘導しているフィルが見えた。
足元に黄色い毛玉も見える。
「おいウサギ、お前ちょっと来い」
「キュピッ」
他人がテイムしたモンスターを横取りしたカイルは、戦いながら命令した。
「草原に戻って仲間連れて来い。んでこいつらを噛みまくれ」
「ピピッ!」
毛玉は敬礼でもしそうな雰囲気で耳をピンと立てると、一目散に草原へ向かった。
カイルが来た事で俄然士気が上がったハーキスは、二人で背中合わせになると未だ数の多いドライアドを相手にした。しかしハーキスが重大なことに気づく。




