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「リコ、きちんと休めよ」


「分かっている」


「本当に分かってるか? 足りないと思えば戻るな」


「そんな心配しなくても――」


「俺は真層界というハンデがあるにもかかわらず勝った。本来のリコはもう少しキレのある動きのはずだ。それに一日の回復量が少なかった。数日で戻るものじゃない。」


「流石にマスターには状態など筒抜けか」


「ペイジの管理もマスターの腕にかかるんだぞ?」


 カイルはおどけた様子で言うが次の瞬間には真面目な顔に戻った。


「リコ、今回お前は自分が思う以上に体にダメージを負ったんだ。ひと月でも足りないかもしれない。頼むからちゃんと休んでくれ。じゃないと俺はお前に命令することになる」


 クレバスに落ちたリコの怪我はそれほど広くはない代わりに深かった。自分で回復させるだけで治せたとは言え、出血量は多かった。そのため気を失い急速に体温が低下してしまった。

 魔王と言う体力がなかったら死んでいたかもしれない。

 カイルが繋がりを強化しなかったら危うかったかもしれない。

 彼女の命を繋ぎ止めたのはカイルだ。


「……分かった。一か月戻らない。だがダンジョンに何かあればすぐに行く」


「それでいい。ニーナのカラスを連れていけ。おいカラス、いいか?」


 カラスは「かー」としか言わなかったが、カイルにはそれが肯定とわかるらしい。

 カイルの肩からリコの肩へちょんと飛び移った。


「もふもふってわけじゃないが、それなりに触り心地はいいだろう?」


「ああ、確かに悪くな……別にもふもふが好きだとは言っていない」


 指先の柔らかな感触に頬が緩みかけ、慌ててそれを引き締めた。

 カイルがそれを見てニヤりとする。


「これを持ってさっさと行け」


 リコが持っていた大きな荷物がカイルに押し付けられた。


「なんなんだこれは?」


「土産だ。お前が好きそうなものを入れておいた」


「へぇ。俺の好みなんて把握してるのか」


「お前は酒一択だろう」


「いいねえ。リコも俺のことちゃんと見ているんだなぁ」


「うるさい。……カイルも、怪我などするなよ」


 リコが心なしか心配そうな目をカイルに向けた。

 彼女がいてもいなくてもダンジョンのモンスターはカイルの敵ではない。そもそもダンジョンのモンスターにとって最上位であるリコをテイム状態のカイルとは敵対しない。

 だから彼女が懸念するのは一つ。

 やたら増えている成り損ないの存在。

 

 今まではこの真層界寄り――人間界から見て“深い”所に出現していたので、この最奥まで到達することのできない冒険者が遭遇することはなかった。そもそも数もそこまでいないので実際に遭遇した人間がいるかは疑問だ。

 しかしどういう訳か弱い個体が増え、それらはもう少し人間界寄りをうろついていることもある。先日の泥人形などかなり人間界寄りだった。

 リコには告げなかった砂漠エリアの地下にいた存在も気になる。


 成り損ないは本来与えられるべきだった体も、心も、役割も何もかも全うに得ることができずただ全てを敵と見なし憎んでいる。

 ヒトを見ればその体を欲するように攻撃し、モンスターならばその邪悪な影響を受けて浸食され、同じようにただ生き物を憎むだけの存在に成り下がる。


 今までは発生する度に仕留められていたが、先日の成り損ないにリコたちは気づかなかった。

 カイルがいつどこでそんな打ち漏らしと出くわすかわからない。


彼は気遣うリコの肩を大丈夫だとでも言うように二回叩いた。

 そしてその手を肩に置いたまま、「リコ」と改めて名を呼ぶ。


「どうした?」


「実はこのサーベルなんだが、一つだけわかったことがある。さっき言うとややこしいから黙っていたが……前に真層界の景色が懐かしいと思った話をしただろう?」


「ああ、初めて私に会いに来た時の話だな」


「そうだ。どうしてそう思ったか、そして雪原で不思議な感覚がした理由がサーベルを持ってわかった」


 リコが何かを期待するような目でカイルを見上げる。

 なんでもいい、何か自分たちのこのはっきりしない記憶の手がかりが欲しい。

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