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「あれはべつに おどろいたわけじゃない」
「ほう?」
「びっくりしただけだ」
「その違いとは?」
「おどろくはたくさんで、びっくりはちょっとだ」
「なるほど。じゃあ少し驚くとびっくりではどっちが上なんだ?」
「すこしおどろくは ちょっとびっくりで、びっくりはちょっとだけすこしびっくりだ」
「なるほど。酔ってるな」
「よってなどいない。お前が三ばいものんでいるものを 私がじょっきのはんぶんで ようわけがない」
「そうだな。よしじゃあ飲め」
「かんぱい」
「おう」
ジョッキが今日5回目の乾杯を迎える。
店員が間違えて置いたエールをうっかり飲んだリコは、そこでやめておけばいいものを、カイルにゲラゲラ笑われたのに腹を立てそのまま半分ほど飲んでしまった。
酒が苦手なのを知っているカイルは慌てて止めたが、既にリコは出来上がっていた。
カイルはそのまま水でも飲んでいるかのように三杯目に突入し、リコは最初の半分のまま口をつけるが、減っているのかはわからない。
やや目が座り、首のあたりまでほんのり赤くなっているのは正直ちょっと可愛いなとは思う。絡み方に独特なものはあるが。
カイルは美人女将お勧めの料理も摘まんでいるが、リコはふわふわとしたまま真層界定番のつまみのナッツで遊んでいる。
ピリッとした刺激のあるピスタチオに似たナッツをテーブルに一つ置くと、それを囲うように他のナッツを並べていた。
「それはなんだ?」
「こどくなまおう」
「ほう。それで?」
リコは真ん中に一つだけのナッツを「とことことこ」と言って歩かせると、囲むナッツの一つに到達した。
「なかなか可愛いことしてるな」
「なかまをさがしてる」
そこでリコは到達したナッツを仲間にするのかと思いきや、カリっといい音をたてて食べてしまった。
「仲間食われたぞ」
「これはなかまじゃなかった」
また隣のナッツまでとことこ行くと、それも食べてしまう。
「それはなんだったんだ?」
「なりそこない」
「なるほど」
そうして他のナッツも全部食べてしまうと、ナッツは最初の一つだけになった。
「なかまがいない」
「かなしいな」
「さみしい」
寂しいは本音だろう。
シラフでは絶対に吐かない本音を言えるのならたまに酔わせるのもいいかもしれない。
カイルはもう一つのつまみの皿からドライフルーツを一つ取った。味はレーズンに似ていたが同じかはわからない。
それをナッツ魔王の隣に置いた。




