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「分かった」
「何が分かった?」
カイルの言葉にほのかな期待を込めてリコが顔を上げた。
「分かったぞ。お前腹減ってるだろ。俺も減った。リコの使命は俺に真層界のうまい店を紹介することだ」
リコがきょとん、とする。
カイルの言葉が一瞬理解できない。
「間抜けな顔もするんだな」
「な……」
「“知らないはずのことを急に思い出す”って前に言ったらお前も同意したよな。あれって俺の場合は多分何かきっかけがある。リコもそうだとするなら、きっかけがない時に悩んでも仕方ないだろ」
「うむ……」
「焦る気持ちが無駄に沸いてくるのもわからないでもない。でも今は時じゃないんだろうな。お前は真面目なんだよ。俺の爪の垢でも煎じてやろうか?」
「それは腹を壊しそうだ」
「まあつまり今がなんの時かって言うと、昼飯時だ。さあ店を紹介しろ。酒もうまいと尚良し」
リコは心なしか表情を崩したようだった。口角が僅かに上がっている。
「爪の垢は遠慮したいが、少しくらいなら見習ってやらなくもない」
リコはそう言うと西の通りへ進んだ。
人生の岐路があった時、彼女はこうやって選び進むことができるだろうか。
その時カイルは隣を歩いているだろうか。
「ここから北に行くとエルフの集落があるんだ。私は別にそこの出身というわけではないが、息抜きに遊びに行くことは良くある。これから行く店はエルフの女将が商う店だ」
「いいねえ。美人か?」
「エルフは皆一様に――?」
「――美しい。俺の知り合いのエルフも美人だしな」
「……私以外にも知り合いがいたのか?」
だったら紹介して欲しかった。出身ではないとは言え、同種がいるのは少し落ち着く。
そう思い隣の男の顔を見上げた。
「いやいない」
一瞬の間を置いて意味がわかったリコは、また表情をからかわれないように思いきりそっぽを向いた。
さっきは後ろから聞こえていた笑い声が、今度はすぐ隣から聞こえた。




