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「下らない」


「下らねぇけど、お前の慌てた顔は面白ぇ。俺のこと散々笑ったしな」


 怒った表情のまま歩き出すリコの後ろを、手綱を引いてカイルがついていった。


「お前いつもクールで表情動かないだろ。どんな反応するかちょっといたずらしたくなった」


「楽しめたようでよかったな」


「ああ、よかった。真層界(こっち)なら気が緩むんじゃないかと思ってな。お前にも表情筋があってよかった」


 背中から聞こえる「ククッ」という声にいつまで笑っているんだと腹立たしくなる。

 本当に下らない。

 下らないけど、実はその片隅でカイルが自分を心配しての行動だとは分かっていた。

 だからこれは怒ったふりだった。

 

 人間界では常に気を張っている。

 リコは誰にも隙を見せたくない。

 気が緩めば、使命が果たせなくなる。

 

 だが使命とはなんだろう。

 コアは私に何を任せたかったのか。

 私はここで、この世界で何が出来るのだろう。


「なあ……」


「ん?」


「お前には二つ名はあるか?」


「二つ名?」


「何か課せられた使命のようなものだ」


「なんだよ急に。普通そんなものあるか?」


「お前ならあるんじゃないかと思った」


 前をスタスタ歩いていたリコが、いつの間にかペースを落とし横に並んでいた。

 つい数分前は怒った表情を見せてくれたというのに、またいつものどこか哀愁を滲ませる表情に戻っている。


「リコにはあるのか」


「ある。私は“迷宮の守り人”だ。生まれた時に知っていたのは名前とこの二つ名、そして座すべき場だ」


「名の通りお前はよくやってるんじゃないか? ダンジョンはリコに守られていると思うぞ」


「これでいいのかわからない。聞ける者もいない」


「魔王不在の真層界だって秩序が保たれてるじゃないか。これ以上今できることはないだろ」


 どこに向かって歩けばいいのかわからなくなったリコは足を止めた。

 当然この町のことなら良く知っている。

 そうではなく、また自分の進むべき道を見失ってしまった気がした。


 ちょうど町の中心であるここには綺麗な花壇が中央にある。

 円形の広場からは四方に道が繋がっていた。

 リコにはそれが運命の岐路に思えた。


 リコが生まれる十年前、最後の魔王が死んだ。

 正確には一人ダンジョンに入り戻ることがなかった。

 十年間の魔王不在の空白の時を経て、リコが新たな魔王としてダンジョンを領有する白亜の城――真層界でカラプティアと呼ばれる地域の主となった。


 リコもカイルも警戒するダンジョンをさ迷う“成り損ない”。

 ではもしそれが成り損なわなかった場合、一体何になるのか。

 ダンジョンが形を変え新たな資源やモンスターを生成する際、稀に生まれ落ちる者。


 魔王。


 リコはダンジョンで初めから“完全体”としてコアから生まれ今に至る。

 何らかの理由で完全体にならなかった魔王の成れの果て、それがリコたちが“成り損ない”と呼ぶものの正体だった。

 

 彼女は生まれた時から二つ名の意味を理解はしていたが、実の所記憶に曖昧な部分があった。

 今も残ったパズルのピースを探し続けている。そんな人生だった。

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