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「カイル」
「なんだ……じゃない、なんでしょう」
「私もキャスたちに何か贈りたい。何がいいだろうか」
リコのその言葉にカイルは嬉しそうな表情を浮かべた。
他者に贈る土産だと言うのに彼がなんそんな嬉しそうなのだろう。
「個々人だと面倒なのでそう言う時は纏めて菓子が定番ですね」
「ぷっ……カイルならどうする?」
「今お笑いになられましたね」
カイルの他人行儀な話し方が可笑しくてつい吹き出せば、その他人行儀のまま咎められた。
小さな笑いが止まらないが彼はリコの家臣の言う事を守ろうとしているようだった。
「俺でしたらフィル以外は酒のつまみですね。彼らは全員呑むのが好きですので」
「くっ……そうか。ならそうしよう。フィルにはそうだな……先日ロッドを買ったばかりだしこんなのはどうだろう」
そう言って手に取ったのは小さな房飾り。青系の糸数本を使って複雑に編んだ模様の下にタッセル状に糸の束が垂れていた。
「店主、これはエルフの房飾りだな?」
「はい。エルフの村より仕入れております。模様の意味は安定……魔力の流れを安定させてくれます。小さいので僅かではございますが。あとはただの飾りとしても観光客には人気です」
「良いのではないでしょうか」
カイルはリコが笑うのを逆に面白がりよりすまし顔でそう答えた。
「それと……マダムにお礼をしたら変だろうか」
カイルはそこは素に戻り「いや……」と言うと「きっと喜ぶ」と続けた。
最終的に結構な量を買い込むと、カイルが既に城で換金してもらっていた真層界の通貨で支払い、店を後にした。
店から出るとリコはずっと堪えていた笑い声が出てしまった。
「ふふっ……お前が丁寧な物言いをすると雨が降りそうだな」
「致し方ございません」
カイルはツンと澄ましたように言ってからニヤりとした。そして何かを投げて寄越す。
「“案外面白い物”あったぞ」
「なんだ?」
見た目は胡桃。リコは受け取ると小物入れになっていることに気づき形の良い爪先を突起に引っ掛けた。
「ひゃあ!」
開けた途端にびっくりして放り出す。
地面に転がったそれは、中に黒い虫――の玩具が揺れていた。
「“ひゃあ”か。ククッ……“ひゃあ”ねえ」
「カイル…」
カイルは胡桃を拾うと、愉快そうに馬の手綱を引いてくる。
子供じみたいたずらを仕掛けられたリコは不満そうに頬を膨らませた。




