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ダンジョン内は入口に近い所ほど賑わっている。
最近やたら森林エリアから木を伐採して来る連中が多い。
そんな森から切り出される木材は人間界ではない固さを持っていたり、逆に柔らかかったり。防虫性に優れている物もあれば、腐食に強いものもある。
勿論森は人間界にもあるが、用途によってはダンジョン産のものが好まれた。
今やこの町にそれなりに馴染んだリコは来た当初ほど注目されることはないが、ルーキーや知らない者は相変わらず驚くことがある。
今日は入口付近にあまり見ない顔の連中がいた。先を歩いていたカイルはいつの間にかリコの隣に歩調を合わせると、彼女のフードをパサっと被せた。
リコは前方を見るとカイルの意図には気づいたが、今しがたつけたばかりの耳飾りがフードの中に隠れてしまったのが少しだけ残念に感じた。
彼らの道を阻むモンスターはなく、また構造も理解している二人は他の冒険者よりずっと早く最奥を目指す。
その道中に“成り損ない”の気配がないか探りながら進むことは忘れない。
「いねぇな」
「いないならそれでいい。あんなもの量産されては困る」
おかしな気配も特になく、もう少しでダンジョンを抜けると言う所まで来た時。
リコは無言で弓を手に取り、カイルもまた背中の剣を抜いた。
剣の柄にとまっていたカラスはカイルの肩に降り、羽を震わせた。
前方に何かの気配が複数ある。
恐らく相手も気づいているだろう。
リコと慎重に歩みを進めると、やがて見えたのは大きな半馬の獣人、ケンタウロスたちだった。
リコがほっとして弓を戻す。カイルも剣を収めた。カラスはちょっとだけ怖いのか不安そうにカイルの頭に身を寄せている。
ケンタウロスたちも同様に手にした武器を下げた。
「リコ様、お久しぶりでございます。武器を向けたご無礼お許し下さい」
「気にするな。見回りをしてくれていたのだろう?」
「はい。まさかリコ様にお会いするとは思いませんでしたが」
彼らはリコの配下で、このダンジョンの警備隊。
リコ不在の間も、彼らは交代でダンジョンの奥――彼らからすれば手前を巡回していた。
目的は成り損ないを発見したり、無謀な人間を追い返すこと。
「カイル殿もお久しぶりです。また老朽化しましたね」
「余計なお世話だ。人間はこんなもんなんだよ。今回は俺も少しそっちに世話になる」
「そうですか。ご自分の足で歩けるうちにお帰り下さい」
「二、三日で帰るよ」
ケンタウロスに先導され進むと、やがて重厚な扉が見えてくる。
彼らの一人が角笛を吹くと、軋む音を上げながらゆっくりと扉が開いた。
薄暗いダンジョンに差し込む外の光に目が馴染むと、そこに見えたのは広大な森とその奥に佇む白亜の城。
扉の位置は崖の上のようになっていて、美しい景色が眼下に広がった。
硬い岩場を下り、森の入り口までやって来る。
リコの表情は明らかに軽くなったのに対し、カイルは息苦しさを感じた。




