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「あれから何年だ? 十五年か」
カイルはそう言うとリコの前で両手を広げる。
リコのまっすぐな眉がきゅっと寄った。
「なんだそれは」
「再会は抱擁と決まってんだろ?」
「必要ない」
彼女はにべもなくそう言ったが、カイルは両手を広げたまま当たり前のように待ってた。
「そう言うなって。人前では遠慮してやったろ?」
渋々ながら彼のがっしりした腰に腕を回すと、小さなリコの体はその腕の中にすっぽりと包み込まれてしまった。
彼女の体を誰かが包み込むのは十五年ぶり。
リコはその温もりにほっとしている自分がいることに驚いた。
「相変わらずほっそいなあ。飯食ってるのかそれ?」
抱き寄せた彼女の髪からふわっと漂う香りが、カイルの脳裏に十五年前の光景を呼び起こした。
エルフにはそう長い期間ではないのかもれないが。
「お前は相変わらず無駄に大きいな。あれからさらに大きくなったのか?」
「あん時まだ十八だぞ。そりゃもう少し伸びしろはあるだろ」
乱雑そうに見えてに意外と優しい抱擁は、彼女の背中を軽く叩いたあと解かれた。
リコを日常的に抱擁する者はいない。
その腕の温かさは彼女の脳裏に十五年前の記憶を呼び起こした。
人間には時代が少し動いてしまうくらいの長さかもしれない。
カイルは解放した彼女にソファに座るよう促した。
纏った竜革のマントを脱ぎ、腰にあった赤と金で装飾された剣を外す。その造りは救助隊のロビーにあった武器と似ていた。
彼女は確かに細身だが、ドレスのような造りのコートと体にぴったりのパンツからはメリハリが見て取れた。
リコには紅茶、自分には濃いめのコーヒーを入れたカイルが向かいのソファに腰を降ろすと、彼はすぐ本題を切り出した。
のんびり再会を楽しんでいるように見えるが、実はリコが来たことに一番驚いているのはカイルかもしれない。
「まずは思い出話といきたいところだが……真層界の魔王サマ自らどうしてこっちに来たんだ? 人間界の伝承通り人間を取り戻しに来たってか?」
『真層界を支配する魔王はいつか人間を取り戻しにその扉を開ける』
人間が扉を隔てて隣り合わせの世界の支配者、魔王を漠然と恐れる理由はこの伝承のためだった。
かつて真層界に囚われていた人間たちは一人の勇者によって導かれ、今の人間界に逃れて来た。
だが魔王はそれを良しとせず、いつか必ず取り戻しに来ると。
かれこれ二千年以上人間は取り戻されていないので、よほど魔王は気長らしい。
カイルはその伝承を引き合いに出してそう言ったが、その言い方は冗談のようだった。
多くの人間にしてみれば不謹慎なこの冗談をリコは呆れた表情で受け止めた。
つまらないものだったからではない。そんな伝承、真層界には存在しない。
「なんだそれは?」
「あれ、そっちにはそういう伝承ないのか。あるわけないよな」
「まさか人間界ではそんな伝承があるのか? 呆れたものだな。どこでそうなった」
「さあな。王家の管理する書物にはそう記されているとかなんとか昔聞いたな。ついでに世界が混沌に陥った時の勇者の再来も信じてるぞ」