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「カイル?」


「ん? ……すまん、何か言ったか?」


「どうした? なんだか変だぞ?」


「そうか? いや、変だな。初めて真層界に行った時と同じ感覚がする。雪原エリアだって何度も来てるんだがな」


 リコがはっとした様子でカイルを見た。

 その目はカイルが初めて真層界へ“魔王”という存在を訪ねに行った時にリコが見せた、これ以上ないくらいの期待を込めた目。


「何か思い出したのか……?」


 その時目指す針葉樹林の方から遠吠えが聞こえた。

 雪原エリアに群れで現れるホワイト・エコーと呼ばれる大型の狼型モンスター。特殊な毛並みで魔法攻撃があまり効かず素早い。雪に足を取られるので冒険者がこの群れと遭遇するとかなり危険だ。そもそも雪原エリアは自然の驚異もあって例えダンジョンの入り口付近に出現したとしてもあまり訪れる冒険者はいない。


 ホワイト・エコーの声はその名の通り雪に吸い込まれることなく反響した。


「俺たちを呼んでる」


「……カイル?」


 まっすぐに声の方に向かったカイルに続き、彼が踏み固めた雪の後をついて行く。

 その足取りに迷いはなかった。


 針葉樹林の中は少しだけ雪の積もり方が穏やかになり、歩むスピードを上げるとすぐに視線の先に遠吠えの主と思われるホワイト・エコーの群れが現れた。

 先頭にいるやや大きな個体がこの群れのリーダーだろう。


「カイル、雪原エリアのモンスターは私の力はそこまで及ばない。気を付けろ」


「唯一無二のお前が?」


「イシャスの民は誇り高い。私のことを認める者ばかりではない。ここも疑似イシャスのようなものだ。お前のテイムの方がよっぽど言う事を聞くと思う」


「なんだ俺はてっきり絶対的権力でも持ってるのかと思ったぜ」


「人間界で言うところの王とも少し違うぞ?」


「ここも一人で何度か来た事はあるが他とあまり変わらなかったけどな。特別敵対したようなことはない」


「そうなのか…?」


 群れはじっとカイルたちを見たまま待っているようだった。


「よう狼サン。俺たちを呼んだか?」


 ホワイト・エコーのリーダーはまるでついて来いとでも言うように踵を返した。

 カイルとリコも雪に溶け込みそうな色をしたその狼を追いかける。

 林を出て、群れがかき分けてできた雪の道をついて行くと、しばらくして雪の上に茶色い塊が見えた。上にはうっすら雪が積もっている。


「カイル、あれは人ではないか」


 急いで塊に近付くと、装備している戦斧とその背格好から、依頼者の兄リーアムではなく恐らくファイターのヒューだろうことが分かった。

 カイルがうつ伏せの体を仰向けにするが、残念ながら息をしている様子はなかった。

 背中の雪の積もり具合からしてそれほど経っていないようにも見えるが、既に体は固い。もう数時間早ければもしかしたら生きていたかもしれなかった。


「残念だ……」


 エルフであるリコはカイルよりずっと長く生きている。

 死は何度も見て来た。むしろ見送る立場だ。

 ただカイルの傍で救助の仕事を手伝っている中対面したのは初めてで、心に無念さが流れないわけではない。


 カイルは遺体の持ち物から遺品になりそうな物を素早く探した。


「他のエリアなら連れて帰ることも出来るけどな。ここじゃそうもいかない。今は生きてる可能性のあるリーアムたちを探すのが先だ。ほっときゃこいつはやがてダンジョンの変化が訪れた時にそのまま吸収される……それまでここで静かに眠れよ」


 指輪と愛用していたであろう古びたコンパス、これも愛用していたのであろう大型のナイフを回収すると、カイルは人間界式の、リコはエルフ式の短い死者の祈りを捧げ立ち上がった。

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