2
全員が馬で駆け抜けると、緊急性の高さを察知した通行人が避けて行く。
三人はそのままダンジョンに入り、カイルを先頭に一気に森林エリアまで突き進んだ。
しかしそこからは馬の速度が落ちてしまう。
樹木がひしめき合う道なき道を進みながら、カイルは森の中に叫んだ。
「アルラウネ! 雪原まで一番早い道を教えてくれ!」
すぐに前方に蔓薔薇を纏った半裸の女の子が現れる。葉と同じような緑の色をした彩光のない瞳で微笑むと、その手をカイル達の行く手に差し伸べた。
その先に数本の木の間隔で蔓薔薇が絡み咲いていく。そちらが正解の道ということだ。
「助かる」
赤い薔薇を辿り進んでいくと、途中で同じように黄色い蔓薔薇を纏った女の子が立っている。彼女も手を差し出せばその先からは黄色い蔓薔薇が案内を続けてくれた。
最後は白い蔓薔薇に代わると出口に本体が待っている。カイルが「ありがとう」と言うと緑の目を細め手を振った。
森を抜け出た瞬間、雪原が照り返す光に三人とも一瞬視界を奪われる。
最初にリコが慣れると見回した。
一面の白い景色。奥には山がそびえる。
足元の雪は今出て来た馬の蹄しか見えず、流石に四日前の足跡はないようだった。
「馬は森に放っておこう。水晶の花は山肌やクレバスの崖伝いに咲く。必ず日陰だ。雪山に登るよりクレバスを選ぶ冒険者が圧倒的に多い。まずクレバスの周辺を捜そう。ウォーレン、吹雪いてもわかる目印を森まで繋げてくれ。行くぞリコ」
ウォーレンは大量に持ってきた小さなオーブを取り出すと松明を灯す様に火の玉を作り出し、森へ繋がるように宙に並べ始める。
カイルはリコと共にまず山の裾野の針葉樹林を目指した。
「何かの手を借りるのか?」
「俺たちだけで探すのは無理だ。相手に意識があるならまだしも、全員死んでりゃ発見すらできない。あのあたりなら狼の群れもいるだろう。あとは空が何かいればいいんだが」
そう言って空を仰ぐ。
今は青空が広がり好天と言えるが、数分後も同じとは限らない。
「シルバー・ワイバーンはいなさそうだな。コンパスは?」
リコは方角だけでなく生体反応を確認できるようにしたオーブを取り出す。
残念ながら方角を示す光点しか見えなかった。
針葉樹林はそれほど広くない。山裾の一部に点在するようにあるだけで、とても普通の動物が住めるような環境ではない。
先ほどカイルが狼と言ったのも厳密には狼のモンスターで、普通の狼の倍の大きさはある。
「リコ、大丈夫か?」
「お前が大丈夫なら私も大丈夫だ。そんな貧弱な存在でないことくらいわかってるだろう」
「いや、リコは正規の隊員でもなんでもない、俺にただ付き合ってるだけだろ? 今更なんだがけっこう過酷な所に連れて来ちまったなって」
リコが鼻で笑う。
「本当に今更だな。ダンジョンのエリアはまるで真層界のミニチュアだ。ここは真層界で言うイシャスに似ている。当然行ったことだってある。私のいるカラプティアよりずっと北の雪国で……どうした?」
カイルが「イシャス」と繰り返しそのまま無言になってしまった。リコの呼びかけにも反応しない。




