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「お前は随分慕われているな」


「リコだって戻ればそうだろう」


「どうだろう……。私はそれを羨ましいと思うのにどこか線を引いてしまう」


「別れが辛くなるからじゃないか」


「別れ? それは長命種だからということか?」


「いや……なんだろうな。分かんねえ、なんかそう浮かんだ」


 カイルの心に浮かぶ自分のとは違う寂寥感。どうしてそんな感情がふと浮かんだのか彼にも分からない。

 何か大事なものをどこかに置いて去ってしまったような、そんな寂しさが胸に広がってすぐに消えた。

 あまりにも曖昧な感情すぎて、リコには言えなかった。

 彼女にそんなこと言えば、また何か思い出したのかと縋られてしまう。そう思ったが、既にリコには何か気づくものがあったようだ。


「もしかして何か覚えている……思い出したのか?」


 既にダンジョンの内部。リコは立ち止まるとそう聞いた。声の響きに何かに期待するような雰囲気が少しだけ混ざる。


「悪ぃ、ほんとにちらっと過っただけだ」


「最近他にそういうことはないのか」


「ないな。あればちゃんと言う」


「そうか……」


 リコが肩を落としかけてすぐ気を取り直した。

 しょげているとカイルに筒抜けだ。

 また余計な心配をさせることになってしまう。


 カイルとリコの行く手を阻むものなど出現せず、彼らは目的の湿地帯の場所まで来た。

 先日夜光石を採りに来た女性を救助した場所。

 目的の薬草はこのエリアの幽霊草という青白い草……に見える虫の巣の周りにある。

 その虫はたんぱく源、例えば人間が近づくと寄生し、その養分を吸い上げ卵を産み付けて行く。一度の産卵数がえげつない数なので、寄生に早く気づかないととんでもないことになる。

 背丈は人間の足のサイズくらい。太さは髪の毛より少し太い程度。丈はあるので寄生に気づきそうなものだが、幽霊と言われるだけあって風に漂うほど軽いので背中についたりすると気づきにくい。

 そのまま養分を吸われるなら多少貧血になる程度だが、翌日には産卵されてしまう。

 火に弱いので焼けばいいのだが、それだと一緒に生えている薬草まで焼けてしまうので意味はない。


 カイルの採り方はちょっと変わっていた。

 まず湿地の中から大型のカエル型モンスター、ピクシーフロッグを探す。捕食対象はピクシー。実はこのカエルは幽霊草も好物。たまに口からはみ出している青白いものをピクシーの手だと思うものもいるが、それが幽霊草だったりする。半分くらいは。

 それを連れて幽霊草の前に置くと、長い舌を伸ばしては一匹ずつ絡め取りおいしく頂いてくれる。

 そして残った薬草をカイルが刈り取っていくのだ。


 この方法を知っていたとしても体中が毒の大型蛙を掴もうとする者はいないし、残る方法としてはテイムして連れて行くというのがあるが、そんなにおいしい依頼でもないのでやりたがる者はいない。

 

「なんでカイルが頼まれるんだ」


「昔ちょっと縁のある女がいてな」


「……遊んでたのか」


 明らかに嫌悪を含んだ言い方にカイルは笑った。


「おいおい、咎めることが出来るとしたら恋人だとか妻みたいな存在だろう? リコはどっちなんだ?」


「どちらもお断りだ」


 またからかうように笑うカイルに腹が立つ。

 どうせカイルも一人の男。

 そういうことだってあるかもしれない。

 あるかもしれないけどそんなの知りたくない。

 いや、カイルの言う通り自分は咎める権利はないはずだ。

 でも腹が立つものは立ってしまう。仕方ない。


 同じ作業をあと三回繰り返すと、持っていた麻袋は一杯になり引き上げた。

 その足でそのまま花街へ向かう。

 カイルにはわざわざ付いてくるなと言われたがそう言われると余計に気になる。

 届けたまま帰って来なかったらゴミでも見るような目でカイルを見てしまうかもしれない。


 まだ昼前の花街の通りは静かだった。

 中の一軒の裏口に回ると、カイルはノックもせずに開けた

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