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「隊長、例のお姉さんたちから特別依頼来てるわよ」
遅い朝、カイルが事務所に出て来るなりニーナがそう言った。
「あー…わかった行ってくる。救助依頼は?」
「今日はあまりないわ。昨日からの引き続きが一件、あと新規で草原と海が一件ずつね」
リコがキャスに「例の依頼とは?」と聞く。
「ん~。本当は冒険者ギルドに出す依頼にゃね。花街のお姉さんたちからの定期依頼にゃ~。花街で必要なものなーにかにゃっ」
花街。
言わずもがな女たちが春を売る店集う場所。
人が集まれば、男が集まれば当然のように裏道に並ぶ。
この島にも数件、そんな場所がある。
「なぜカイルが?」
「あの薬草、滅茶苦茶採りにくいにゃ。ギルドに依頼を出してもなかなか集まらないにゃね。あんまり値段を吊り上げるわけにもいかないし、どこからどうしてそうなったか隊長が採ってくるにゃ~」
「案外昔の遊び相手だったりしてね」
ハーキスがニヤけながらそう言うのをリコがひと睨みする。彼は「こわっ」と言いながら目を逸らした。
「リコ妬いてるにゃ~」
「違う! いかがわしいっ!」
カランと音がして扉が閉じた。カイルはもう行ってしまったようだ。
リコが慌ててその後を追った。
「あら、行っちゃったわ」
「リコは隊長大好きにゃね~」
「うわー、俺隊長の修羅場見たい」
「趣味が悪いわよ。あの二人の距離感も謎よね。隊長があれでぐいぐい行かないのが不思議だわ」
「さっさとくっついちゃえばいいにゃ~」
「もしかしてリコちゃん、俺の告白待ちか!?」
「それは絶対ないにゃ…」
「僕は何も聞いてない、僕は何も聞いてない」
ダンジョンに向かうカイルの後ろ姿に追いついたリコは、黙ってそのままついて行く。
その辺の散歩にでも向かうような雰囲気のカイルはリコに気づくと「なんだ来たのか」と言った。
「リコ、さてはいやらしい想像をしているな」
「煩いっ」
カイルはハーキスと同じように「こわっ」と反応すると、そのまま無言で進んだ。
途中ですれ違う顔なじみの冒険者や露天商が、カイルに気づくと気さくに挨拶していく。
カイルはそれに片手を上げて応えていた。
カイルの出身は大陸でも北部の方。島に来たのは十六の時。そしてリコに初めて会ったのは十八歳。
彼はリコとの約束のためこのダンジョン島に拠点を置きそれからずっとここにいる。
縁もゆかりもないこの地に自分で地盤を築き人間関係を築いたのだ。
リコにはそれは真似できない。
初めから全て用意された中に現われ、そこには住む場所があり多くの臣下もいる。
どうして自分はそれでも孤独を感じてしまうのだろう。
どうしてカイルは孤独に見えないのだろう。
彼の生活を垣間見ると、たまにカイルすらもどこか遠い存在のように感じてしまう気がした。置いて行かれたような、そんな気分になってしまう。




