1
「カイル隊長、僕気づいてしまいました」
見習いとしてフィルが救助隊のシェアハウスに住むようになってしばらくたったある日。
カイルがリコとダンジョンの見回りに行くのについてったフィルは、帰って来ると大真面目な顔をしてそう言った。
「なんだ?」
「僕ついて行くついでにテイムの技を盗んだり、便乗して何かテイムできないかなって思ったんですよ」
「おう、いい心がけだな」
「いい心がけじゃないですよ! ロッドを買ってもらった日はそれなりに戦えたのに、あれ以来隊長といたらモンスターなんて誰も敵対しないじゃないですか! テイムの瞬間だって見れないし、僕どうすればいいんですか!」
カイルは愛用のナイフの手入れをしながらニヤニヤ笑った。
「俺はテイム云々は知らんって言ったろ? 俺が教えるのはダンジョンの構造だとか救助のイロハだな」
「もう。なんでカイル隊長とリコさんは何も敵対しないんですかね?」
以前のリッチのことを思い出し、フィルはリコの顔をじっと見た。
エルフって皆一様に美しいとは言うが、確かにリコはすごく綺麗だと思った。いつも少し寂しそうな雰囲気があるのが気になるところだが。
当の本人は答えたくないのか、すっと目を逸らしてしまう。
二人とも答えてくれなさそうなのでフィルは自分で考えてみた。
カイル隊長はリコさんをテイムしている。これは否定もされなかったしきっと事実。
テイムしたモンスターより弱い敵は、そのマスターであるテイマーの言う事も聞いてくれる。
だからテイマーは少しでも上のランクのモンスターをテイムしたがる。
リコさんはモンスターじゃないけど、エルフは何かの上位種なのかな。
でも先日のリッチはアンデッドだし……アンデッドとエルフ……違うよなあ……
「そうそう、そうやって自分のオツム使って考えてろ。普通に戦いたいならハーキスやウォーレンと行くんだな」
そう言うとカイルは手にしたナイフを鞘に収めた。
うにゃうにゃ言いながら救助道具の棚をチェックしていたキャスは「それなら~」とフィルを振り返った。
「在庫補充の買い出しに行くにゃよ~。フィルは雑用なのにゃ。ちゃんと私の仕事を覚えて私に楽させるにゃ」
「え、あ、はい。そうでした。僕はキャスさんのお手伝いもするんでした」
「いい子にゃね~。それじゃあお姉さんが優しく教えてあげるから覚えるにゃよ~」
キャスはそう言うと必要物資のメモと救助隊の財布を手に、フィルを連れて雑貨屋へと行ってしまった。
入れ替わりで客が入って来る。
ニーナは今遅い昼休憩中なので、カイルが対応した。
「すみません、夜間採掘に出たいんですけど、夜間も対応してますか?」
「そりゃ勿論二十四時間対応してるぞ。夜間救助は割増料金になるけどな。目的は?」
「私たち夜光石採りに行きたいんです」
夜光石はその名の通り夜に光る。
暗がりで光るのではなく、夜に光る。
湿った沼地の苔むした岩場にあるが、モンスターが活性化し危険な夜間に行かなければならないことと、発見が難しいために採取の難度としては高い。
勿論取引はそこそこの高値だ。




