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ハーキス:細身の割にがっしりとした、やや軽薄な印象を受ける救助隊隊員の若い男。得意武器はハルヴァード。誰にでも口調が馴れ馴れしい。
迷宮救助隊。
十年ほど前に出来たこの組織は、隊長以下数人の隊員で構成されている。
面白いのは人間だけでなく獣人もいること。エルフほどではないが獣人も珍しいのにそれが二人もいる。
公的な機関ではなく私設の団体で、ダンジョンに潜る冒険者が保険として使うのがメインだ。勿論内容によって利用価格が異なる。
ダンジョンに潜る前に申請すると、追跡用の小さなオーブを渡される。
救助が必要になった時に使用すると救助隊に伝わるようになっており、隊員が救助しに来てくれるのだ。
当然ダンジョンの奥深い所で救助要請した場合はそれなりの時間がかかるので、例えば強敵に囲まれ絶体絶命となった状態での生存率がどうなるかはお察しとなる。
それでも遭難者に限って言えば必ず助けに来てくれるし、強敵に苦戦していたとしても逃げ回っているうちに救助された例もある。
設立当初は胡散臭がられた救助隊だが、今ではこの島での信頼度は高い。
カラン、とドアベルを鳴らして入った建物には、小さなロビーに数人の利用客とカウンターには猫の獣人の女性、その奥のデスクにはカラスの獣人なのか全身真っ黒のいで立ちで口紅だけは真っ赤な女性がいた。
ロビーには誰かの趣味なのか優美な造りの様々な武器が飾ってある。
「いらっしゃい……あら、あなたエルフなの? 待って、どこかでお会いしたことあったかしら?」
猫の女性は来客対応中で、カラスの女性が対応する。
「いや、初めてだ。人を探している。カイルという男はここにいるか?」
「ええ、ここの隊長よ。お呼びしましょうか?」
「頼む」
「失礼ですがお名前をお伺いしても?」
「リコだ」
「リコ様……お待ちくださいね」
カラスの女性はリコを不思議な目で見ながらカウンターから離れると、奥の扉へと消えていった。
待っているリコはロビーを見回した。
壁に並んだ武器を見つけると興味があるのか熱心に眺めているようだった。そしてそのうちの一つを手に取る。
赤と金で装飾された弓は、持ってみると手にしっくりと馴染み、ごてごてとした装飾の割に重くない。
随分集めたものだな。そう思っていると突然後ろで男性の驚いた声が聞こえた。
「うわっ! 持ってる!」
「すまない、触ってはいけなかったか?」
「いや、触ってダメならこんな置き方しないと思うけど。お姉さん持てるの? え? エルフ?」
咎められたような気がしたのかリコは持っていた弓を壁に戻すが、男の表情は驚いたままだった。
「これ普通持てないんだよ。……ほらな?」
茶色い短髪のその男が隣にあった剣を持とうとしたが動かない。
細身の割に服の上からでも分かる筋肉を見れば、こんな普通の剣など持てないのがおかしい。
「隊長以外で持つ人初めて見たよ。あ、ごめん。お客さん? もう受付した?」
「私は客ではないが、カイルを待っている」
「なんだ隊長の知り合いか。隊長エルフと知り合いなんだ……すご。ああ、俺はハーキス。ここの隊員だ」
「リコだ」
「リコ……リコちゃんか。よろしく。ああ、隊長はもうちょっとかかると思うよ。大体この時間はまだ寝てるから」
リコの目がハーキスの後ろにある時計に動いた。
まだ寝ているとしたら大分お寝坊さんと言いたくなる頃合い。
「もう十時も近いが?」
「夜間対応はいつも隊長なんだ。だから朝は大体寝てる。まだ起きないってことは昨日は出動があったのかもな。隊長の知り合いならあっちの応接室で待つか?」
「いや、ここでいい」
「武器好きなの?」
「興味がないわけじゃない」
「これ隊長が気付くとダンジョンから見つけてくるんだよね」
「レリックだ。ダンジョンが生み出した」
「知ってるの?」
次々と話しかけてくるハーキスに、ここでリコが訝し気な目を向けた。
眉間に皺が寄るのを見る間でもなく、迷惑そうな表情。
「あ、ごめん。エルフが珍しくてつい。エルフってマジで美人なんだね。じゃあごゆっくり」
彼はそう言うとカウンターの内側に入って行った。
見れば奥にはもう一人隊員がいるようで、その人物もエルフが気になるのか、遠くからリコの様子を伺っているようだった。
リコはまた壁の武器に目を戻し、ソーサラーが使うような長い錫杖を見ていると、またも後ろから声をかける男がいた。