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「大分疲れたみたいだな。まあもうちょい踏ん張れ。砂漠エリアは気候にも注意しろよ。昼間なら熱さ、夜は寒さが強い。箱庭みたいなダンジョンだがその実自然がそのままあるのと同じだ。救助に行ったはずが救助待ちなんてなるなよ。今日は装備を整えて来たわけじゃないからこの辺見たら帰るか」
さっきまであんなに緑が溢れていたと言うのに、このエリアに入った途端見渡す限りの砂。時々思い出したようにサボテンや何かの植物があった。
一番注意が必要なのがアリジゴク。ただしアリではなく人間も含む大型生物が対象。ただの窪地かと思って踏み込むと、そのまま真ん中まで引きずりこまれエサになってしまう。エリアの生成位置に関係なく出現するので厄介だ。
「アリジゴクにハマって救助要請を出しても悪いが助けられん。目の前でハマったなら道具さえあればなんとかなるが、普通は到着するまでの間に喰われちまうからな」
カイルはそう言うと熱い砂の上を歩き始めた。
少し離れた所に僅かに丘になった部分があり、そこから周囲を観察したら戻ろうということになった。
「ここもコンパスがなかったら迷子確定ですね」
「いっちょ前に砂嵐が来ることもあるぞ。埋もれた依頼者の救助をしたこともある」
小さな砂丘に着き周囲を見回す。数人の冒険者が岩に群がっているのが見えた。恐らく何か鉱石の採掘だろう。
その向こうの景色はゆらゆらと揺れている。
遠くに緑に見える所があるので、そこにはオアシスがあるのかもしれない。
ダンジョン内なのに本当に不思議な光景だ。
「あっちの砂で作業してる冒険者は何を採掘してるんですかね」
小さく見える数人の人間が砂を集めては壺に入れ、それを火で炙っているように見えた。
「砂を焼いてるんだろ。この辺の砂は焼くと特殊な鉱石と分離するんだ。砂を持ち帰るより現地で焼いた方が確実だし多く持てる。強い炎を扱える魔法職が小銭稼ぐにはちょうどいい」
「へぇ……砂漠がダンジョンの浅い所にある時はルーキーにはいいですね」
「高火力出し続けないといけないからソロには難しいけどな」
そう言われればパーティを組めなかったフィルは苦笑するしかない。
なるほど、確かに焼いている冒険者は複数人……六人パーティで来ているようだった。
あの時ろくな装備もなく誰にも信用されなかったのでパーティを組めなかったが、せめてこのロッドくらい装備で来ていればパーティを組めただろうか。
でもそうしたらこんな出会いもなかったろうな。
ちょっとがさつだけど実は面倒見の良い隊長の横顔を伺うと、彼はまだ砂を焼いている冒険者の方を見ていた。見ていると言うより、どこか睨んでいるようにも見える。
「あいつら……あの窪地は嫌な予感がするな」
「窪地?」
「作業してる場所の右…少し砂が窪んでるだろう? 砂の流れがあそこだけ綺麗なんだよ」
「ほんとだ…アリジゴクですか?」
「可能性は高いな。ちょっと注意するか」
そう言うと砂丘を下り始める。
作業者は少しずつ移動しながら焼いているようで、いつ窪地の方へ踏み出すかもわからない。
滑り降りるように下り、そちらに駆け出そうとした時だった。
作業中の壺から何かが勢いよく飛び出し、中の一人が熱さと驚きで大きく後退した。
恐らく焼いている砂の中に砂蜘蛛でもいたのだろう。砂焼きの作業に混ざっているとよく起きる事故だ。
驚いて後退した先には彼らが持ってきた荷物があり、それを踏んだ作業者は転んでしまった。
「離れろ! アリジゴクかもしれない!」
カイルは咄嗟に叫ぶも、流石に距離が離れすぎている。
砂に足を取られながら全力で走るしかなかった。




