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「熱帯のモンスターだと毒がけっこう厄介だな。救助でも解毒剤は数種類持つ。魔法でもいいが、例えばモンスターに囲まれてる所を救助なんてなるとそうもいかないこともある。で、俺たちは今その毒系のモンスターに囲まれてるのは分かるか?」
全く気付いていなかったフィルは慌てて気配を探る。テイムするときのフィールド展開の応用で少しくらいなら察知できる。
「わ、ほんとだ……ヘビとかですか? ぼ、僕どうしたらいいですか」
「せっかくロッドがあるんだしちょっと戦ってみろ。俺は見てる」
フィルは気配を数えた。
自分の前に二体、カイルの後ろに一体いる気がする。
買ってもらったロッドに魔力を流しマスターオーブに放ちたい魔法を溜めて行く。
爬虫類系には氷と言う王道。
一番力が高まった所でロッドを一振りすると、前方の茂みの上に吹雪のようなものが渦巻き、目標二体に向かって氷のつぶてを連続で放った。
すぐに振り向き後ろの一体に対処しなければならない。
だが前方の二体に先制してしまったので、後方のヘビはその距離を一気に詰めに来ていた。
フィルの魔法速度では間に合わない。
まだ半分も溜めていないと言うのに、意外と跳躍力のある蛇がカイルに向かって飛び跳ねた。
大きく開いた口には鋭い牙が見える。
あの毒牙にカイルが……と焦ったのも一瞬で、彼はあっさりと身をかわしてしまった。
「ほら、また来るぞ」
慌てて残りの力を溜めると、またロッドを振り鋭いつららを飛ばした。
「あれっ、わっ、はやい!」
素早い動きにフィルの方がついて行けず、続けて二発外してしまった。
ロッドに溜まった最後の魔力で飛ばしたつららがやっとその頭を貫き、熱帯の有毒蛇グラスバイパーは動かなくなった。
「やった!」
「と思うのは早くて――」
出来ましたと振り向こうとした時、カイルがそう言いながらフィルの頭上でナイフを一閃させた。
短い銀色の軌跡の後に、肉が断たれる音と二つに分かれたグラスバイパーが落ちて来た。
地上に落ちてしばらくのたうち回ると、やがてゆっくりと動きを止めた。
「き、気づきませんでした」
「頭上に木があるエリアは要注意だな。あと他の武器が使えないようなら魔法をある程度連発できるように別のオーブをカスタムしとく手もある。そこんとこはウォーレンが得意だから今度見せてもらえ」
「はい!」
「今序盤のエリアはここ熱帯、砂漠、少し奥に草原だな。草原の向こうに森林地帯があったがその辺からモンスターも強くなり始める。さらに雪原、海岸、最奥は今渓谷だ」
「変化ってつい先日でしたよね。もう全部把握してるんですか」
「一応な」
「最奥ってことは……扉まで行けるんですか」
「ギルドにだって到達できる冒険者は稀にいる。あとはそこを越えるかどうかだ。簡単に超えさせてはくれないのがいるけどな」
「それって魔王……」
「の、配下だ。力づくで通過も出来るが、そんなことしたらおっかない魔王サマが黙ってないだろうなあ。よし、今日は次のエリアまで行くぞ」
そう言って丈の高い草をかき分けどんどん進んでしまうのを慌てて追いかけた。
エリアの説明や救助のポイントを聞きながら進み、その間に現われたモンスターを退ける。カイルはルーキーであり見習いであるフィルにも容赦はなく、こんなに一度に魔法を使ったのは初めてだった。
テイムも出来たらしてみたいと思っていたのに、疲弊してしまいそれどころではなくなってしまった。今は蝿の一匹もテイム出来ない気がする。




