2
「お願いします! 僕を弟子にしてもらえませんか?」
「って言ってもなあ。お前そもそも救助申請に虚偽の内容書いただろう? ほんとは虚偽の申請はペナルティなんだぞ?」
リコが近くにいた隊員のハーキスに「どうした?」と聞いた。
「ああリコちゃんおはよう。お、今日は可愛いね。あ、今日も、だな。昨日の少年、隊長に弟子入りさせろって朝から頼み込んでるんだよ。あと年齢を詐称してた。本当は十五のところを十六って書いたらしい。うちはダンジョンにソロで潜るのは十六からってことにしてるからな」
「なんで弟子入りなんだ?」
「そりゃあねえ。エルフをテイムなんて普通はないからなぁ」
「エルフをテイムしたいのか?」
「そういうことじゃないんじゃないの? それほどの能力があるって思ってるんじゃないかな」
「隊長はモンスターたらしにゃ~。テイムしなくてもフラフラ~ってまたたびみたいについていきたくなるにゃね~」
「キャスは一応ヒトだろう」
「それでもにゃ~」
少年フィルは平謝りしながらなおも食い下がっている。
その必死さにカイルの顔には「面倒」と書いてあるようだった。
「なあ、わかると思うが俺はテイマーでもなんでもない。そう言う意味ではその辺のオッサンだ。ただの救助隊。お前が行くべきは冒険者ギルドだろう?」
「テイマーじゃなくても実際にエルフのペイジがいるんですから本物より本物です!」
「あのなぁ…」
冒険者がパーティを集う時、普通は自分の能力を現わすのに「ファイター」だの「ソーサラー」だの戦闘スタイルを表すジョブ名で名乗ることが多い。
明確に定義があるわけではないが、ファイターを名乗れば当然相手は近接の物理攻撃を期待するし、ソーサラーを自称すれば魔法攻撃が出来るものと思われる。
冒険者ではなくとも、武器を持って戦う者は多かれ少なかれこのジョブの意識はあった。
テイマーを名乗れば当然テイム能力を当てにされる。
「じゃあカイル隊長のジョブは何なんですか?」
「強いて言えばオールラウンダーだよ」
「もったいない! そんなテイムの力があるのに!?」
冒険者ギルドでは「器用貧乏」「ジョブレス」と揶揄される、ジョブのようでジョブでないジョブ、オールラウンダー。
突き抜けた能力がない代わりに何でも出来るため、ルーキーやせいぜいダンジョンへ深入りしない中堅どころには重宝されることもあるにはあるが。
突き抜けた能力がないので、足りない戦力を補う意味では高ランカーには見向きもされない。
もし師として誰かを仰ぎたいと言うのなら、正道から外れた自分より他に相応しい人間がいるはずなのだ。そしてそれを探すのならば冒険者ギルドの方が相応しい。
テイマーを名乗り正攻法の戦い方をする人間に師事する方がいいに決まっている。
「それに俺は救助隊だ。弟子なんて取ってられない。百歩譲って救助隊に入りたいってならまだ話はわかるが」
「入隊は何歳からですか?」
「十六だ」
「僕あと半年で十六です! それまで雑用でもなんでもしますから傍に置いてください! そして十六になったら入隊させてください!」
カイルは大きく溜息を吐いて頭をかいた。
熱血タイプは嫌いじゃないが何分まだ子供なのが困る。




