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リコ:ダンジョンから出てきたエルフの少女。人間界で見るのは非情に珍しい。表情にやや乏しく、冷めた印象。
カイル:リコが訪ねて来た人間の中年男性。ダンジョン遭難者を救助する迷宮救助隊隊長。ちょっとガラが悪い。
ダンジョンから出て来た一人の少女を見て周囲にいた人間はざわめいた。
「見ろよ…エルフだ」
「マジで? ……マジだわ」
ダンジョン前の広場にいる冒険者も露天商もただの通行人も誰もがその少女に注目する。
銀色に輝く長い髪を高い位置で結い、特徴的な長い耳には人間界にはない緑青色の真珠の耳飾り。冒険者風のマントを着ているがどう見てもレアな革製で、男たちが注目する細身の体を覆い隠している。
彼女は広場の真ん中で立ち止まると、銀に少しだけ青を溶かしたような瞳で辺りを見回した。
やがて一番近くにいた冒険者の一人を捉まえると、見た目よりずっと芯のある声で尋ねた。
「人を探している。カイルという男を知らないか」
「し、知らない…俺来たばっかのルーキーだし…」
「そうか。失礼した」
彼女は依然注目を浴びたまままた、今度は長くそこにいるであろう露店商の一人に尋ねた。
今日の買い取り強化品をボードに書いている途中だった素材商人の男は、自分に向かって来るエルフを見ると手を止めた。
「すまない。カイルという男を知らないか」
「カイルって救助隊のカイル隊長かい?」
「救助隊かは知らないが大柄で歳は三十三。灰色の……雨雲みたいな色の髪をしている。以前は長かったが今は知らない。目は青のような緑のような…ああ、この真珠のような色だ」
エルフは自分の耳を飾る真珠にちょんと触れた。
「真珠……それ真珠なのか? 珍しい色だな……」
「普通真珠はこの色だろう?」
露天商は不思議な顔をしたが、もしかしたらダンジョン産のレアな物かもしれないと思い直し、問われた人物について答えた。
「中年で灰色って言うと、やっぱりカイル隊長のことだと思う。この広場を抜けて大通りにぶち当たったら冒険者ギルドがある。その建物の三軒左が救助隊の本部だ。今日はまだ姿を見てないからきっといると思うぞ」
「そうか。礼を言う」
エルフの少女は固い口調でそう言うと、早速教えられた建物を目指した。
「エルフなんて初めて見たわ。いるんだねえ本当に」
すぐに小さくなった後ろ姿に露天商の男はそう呟くと、ボードに“緑青色の真珠の情報求む”と書き足した。
冒険者ギルドの扉は開け放たれ、今日も多くの冒険者が出入りしていた。
まだ時刻は朝の九時を回ったばかりだが、これからダンジョンに潜る者たちがパーティメンバーを探していたり、情報を交換していたりと既に騒がしい。
入口にいた男女がエルフに気づいた。
「嘘、エルフ? 実在するの!?」
「どこから来たんだ? エルフって真層界の住人だよな?」
エルフは注目されていることに気づかない様子で、目的の建物を見つけると扉を開けた。