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「リコは何か買ったにゃ~?」
「これを買ってもらった」
リコがカイルにもらったハーブティーのブリキ缶を見せる。
貴族的な絵が描かれた美しいラベルが見えた。
「あら、可愛い缶ね。買ってもらったってことは隊長から?」
「そうだ。飲んでみるか? 私が真層界でよく飲んでいたお茶だ」
カイル以外には一定の距離を置くリコが珍しくそう言うので、二人は喜んでいただくことにした。
心なしかリコも嬉しそうだ。キャスとニーナはその表情を見ると、二人視線を交わし頷いた。
キャスも嬉しそうに見える?
ニーナもそう思うにゃ?
そう目で語り合うと、キッチンでお湯を沸かすリコを見た。その後ろ姿に、アクセサリー好きのニーナが目ざとく気づいた。
いつも高い位置で革ひもだけでくくられているリコの髪に、今日は何かがついている。
「あら、リコ。アクセサリーも買ったの?」
「え……? 買ってないが?」
ニーナはリコの頭を指差す。
「コームかしら? ちょっと取るわよ」
そう言ってニーナが取って見せたのは、ポニーテールの根元に刺さっていたらしい小さなコーム。
薄い水色の小さな石が横一列に並んだシンプルな物。
「アクアマリンね。あなたの髪って銀だけど、光加減によっては青っぽく見えるから色味が似てるわ」
「知らない……どうして……あっ」
「何か思い当たるにゃ?」
「昼間カイルがフードを被せてくれた時に違和感が……」
「隊長、ぬかりないにゃ」
「いつの間に……」
リコが手の上のコームをしげしげと眺める。
普段は邪魔だからと積極的にアクセサリーを付けようとは思わないが、よく真層界での使用人にも「寂しい」だの「味気ない」だの言われることもある。
別に嫌いではないので、激しい動きをしても気にならない物ならつけなくもない。
だから真層界から来た時にもありふれた真珠の耳飾りだけは付けていたのだが。
ありふれているが緑青色の真珠はリコのお気に入りの色。それまで特に何とも思わない色だったのに、その色は離れているある人物を彷彿させてなんとなく手に取ってしまったもの。
ちなみに人間界の真珠は白と知って白い物も買ってしまったが、それは単純に物珍しさ故。今は気分でつけ変えている。
いつの間にかつけられていても全く気付かなかったこのコームくらいのお洒落なら、あっても悪い気はしない。
ニーナが「つけておくわね」と言うとまた同じ位置に挿してくれた。
「あなたらしい素朴さがいいわね。革ひもが茶色なのがちょっと残念だけど」
リコは挿してもらった場所に手を触れると、きゅっと唇を噛んだ。
これは嬉しいような恥ずかしいような気持ちを出したくなくて、彼女がする照れ隠しの表情。
ニーナはそれを見てくすりと笑い、キャスは何か言いたげにニヤニヤしていた。
「お茶、淹れてくる」
カイルが買ってくれたお茶の香りは真層界を思い出す。
まだ少ししか離れていないが、毎日のように飲んでいたお気に入りの香りがなんだか高揚してしまった心を静めてくれた。
リコはお茶を飲みつつもう一度髪に触れる。
翌日の彼女の髪を結う革ひもは、コームに合わせてニーナお勧めの白に変わっていた。




