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「リコ行けよ」
からかうように言ったカイルは、リコを見ながらニヤニヤしている。
彼女が武器が気になって仕方ないことを見込んでの言葉だった。
「なんでだ。カイルが行け」
そのコソコソしたやり取りを、カモを探す店主が気づかないはずない。
「カイル? もしかして救助隊のカイルってのはあんたか?」
「なんだ、俺も有名人なったもんだな」
店主はいい人物を見つけたとほくそ笑んだ。
救助隊は近頃では冒険者の間では「利用する価値はある」と言われるくらいには評価が上がってきている。
評価が上がるということはダンジョンを相手にする以上腕っぷしがいいはずなのだ。それを新商品で打ち負かせばいい宣伝になる。
この島の冒険者はすぐいい武器に飛びつく傾向にあるからな……そう腹の内で思っているようだった。
「どうだ試してみないか? あんたも腕にはそれなりに覚えがあるんだろう? 勝てば危険な任務に敬意を表してタダで譲ってやってもいい」
出来るわけないがな、と心の中で付け足す。
勝負をする大男には身体強化のアクセサリーをいくつか持たせている。
単純な力のぶつかり合いになれば負けるわけない。
「えー、やだね。俺は宣伝の片棒なんか担ぎたかねぇ」
「さすがの救助隊でも自分より大きな相手は怖いか!」
「じゃあそういうことにしておこう」
「隊長ともあろう男が最初から怖気づくのか!? 救助隊も大したことないな!」
リコが隣から「サンプルに欲しい」と囁く。カイルは「やめとけ、詐欺だよ。偽物」と耳に囁けば「そうなのか?」と驚いていた。一人で好きにバザーを見せていたら帰りはあちこちの店から何か掴まされていそうだった。
「女にいいところを見せたくはないのか? なあみんな! 男なら戦いに勝ち美酒に酔いしれいい女を抱く。そうだろ!?」
野次馬は面白いものが見れそうだとでも思ったのかやんやと騒ぎ、その声を聞きつけた人々がさらに集まって来た。
「悪いな。俺はあんたんとこの品には興味ねえよ」
「なんだと……うちの武器の質が悪いってのか?」
「めんどくせぇ……」
「救助隊も名ばかりだな! 皆気を付けろ! 金だけむしり取られていざ救助を要請したとこでこいつらにそんな能力はないぞ!」
明らかな挑発にカチンときたのはリコだった。
お前にカイルの何がわかる。
「カイル、私が行く」
「目立つぞ」
「煩い。黙らせて来る」
「リコはクールなようでて怒りっぽいよな」
リコが一歩前に出ると店主は驚き、野次馬は一層盛り上がった。
「まさかとは思うがお嬢ちゃんが挑戦するのか?」
「侮辱もほどほどにしろ」
少女がやる気らしいことが分かった野次馬は、好き勝手に叫び始める。
「いいぞ姉ちゃんやっちまえ!」
「おいデカブツ、お姉ちゃんをひんむいてやれ!」
下品な声が飛び交う中、野次馬を押し分けてカイルの元までやって来る人物がいた。
リコが何やらやる気らしいこの状況を、野次馬に便乗して面白がっているのはハーキスだった。
「ちょっと隊長、何楽しそうなことしてんすか」
「なんだハーキスいたのか」
「いたのか、じゃないっすよ。リコちゃん大丈夫なんすか?」
リコが隊長にくっついて何食わぬ顔でダンジョンから帰って来るのは何度も見ているが、彼女の実力はまだ見たことがない。
それでも細身で可憐なリコが立ち向かう相手が大男なのを見ると、なんで隊長まで面白そうなんだと思ってしまう。
だが当のリコはやる気らしかった。




