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彼女は天幕を見回すのをやめると、一直線に武器屋の方に向かった。
後ろで見ていたカイルが苦笑する。
彼はすぐには後を追いかけず、近くのアクセサリー屋に目をやった。
いつもシンプルな装いのリコは、彼女の境遇も相まってか儚げに見えてしまう。
もう少し存在感のあるアクセサリーでもして華やかにしてもいいのにと思う。
目立つのは好まないので、きっとそんなものをあげたとこで部屋の置物になりそうだが。
今日は長く絹のような銀髪も、辛うじてついている緑青色の真珠の耳飾りも皆フードの中に収まっている。
明るい陽射しの下でリコの美しさが晒されないのは、カイルにとっては少し勿体ない気がした。
自分の後ろ姿をそんな風に見ている者がいるのを知ってか知らずか、目的の武器屋の前までやって来ると人だかりから少し距離を取り様子を伺った。
武器屋なだけあって屈強な男が多いので、小柄なリコは何も見る事が叶わない。
ぴょこぴょこ動く姿はお父さんを捜しに来た子供のようにも見えてしまいカイルはまた苦笑した。
人だかりの中心からは店主の威勢のいい煽り文句が聞こえていた。
「大陸のダマスカス製法にダンジョン産の希少金属、ハルマー銀を合わせた新技術だ! 打ち合いを続けても刃こぼれ一つしない。切れ味がずっと続くぞ! さあ誰か試したいやつはいないか? この男に勝てば半額にしてやるぞ!」
誰かが名乗りを上げたのか剣の打ち合う音が続いた。
「見えない…ハルマー銀など本当に合金にできるのか?」
「抱っこするか?」
リコは何も言わずニヤりと彼女を見下ろすカイルを睨みつける。
そんな子供っぽいことするわけがない。
ハルマー銀は真層界の中央、小人族系のヒトが多く住む渓谷エリアが主な産出地。ダンジョンでも似たような渓谷エリアで採れるが、採掘自体が難しく、加工も難しい。
単独で加工することは可能で非常に高価で質の良い武器になるが、合金は真層界でも聞いたことがない。それに真層界ですら偽物が出回るような代物。
人間がそれを大量に採掘し加工を成しえたと言うのだろうか?
時々真層界にもない技術で驚くような発明をする人間。
実物が入手出来れば小人たちに新しい技術を伝えることが出来るかもしれない。
「何そわそわしてんだよ。見たきゃ前に出りゃいいだろ」
そう言うとカイルは「悪ぃ」と周りに声をかけながらリコを引っ張り最前列まで連れて来てやった。
背中を押されたリコは、戸惑いつつも開けた視界で問題の武器を見つめた。
腕組みをして次の挑戦者を待ついかにも戦士な大男。
その傍に新商品を掲げる武器商人。
今しがた挑戦した者は負けたらしく腕を押さえながら群衆から逃れて行った。
「さあ他にはいないか!」




