8.さぁ喋ってもらうぜ、馬鹿大臣共
様々な店が立ち並び、栄えているファイテンの街。そんな中、男たちがジロジロとみて噂する声が聞こえてくる。
「おい、見ろよ。あの3人組。上玉ばかりだぜ?」
「俺は断然、あの青髪がタイプだなぁ」
「おいおい、どう考えても銀髪の美女が1番だろ?」
「俺はあの赤髪結構好きだぜ? 色気すげーし、身長高くてスタイルいいしなぁ」
そんな声が聞こえてきて、俺はふふふっと笑った。それを見て、アランとセリーネが慌てて叫ぶ。
「ちょ、ちょっと……!? 笑うとこじゃなくない!? ぼ、僕ら噂されてるんだけど!?」
「本当よ! 何でシアノは笑ってるのよ!?」
「貴女たち、うるさいわよ。あと、私はルシアンヌよー、名前を間違えないでくれるかしら」
俺が声を高くして女口調で話した途端に、2人はさらに顔を歪める。それを見た俺は2人の耳を掴んで地声でにっこりと笑顔を向けて囁いた。
「次、そんな顔したり、文句言ったりしたら、催眠系かけてやるからな」
「「は……はい」」
そんな怪しい行動をしたのをさっき俺たちのことを話していたおっさんたちが騒ぎ始める。
「お、おい……喧嘩か?」
「美女同士で? それはないだろ……」
めんどくせぇ。……よし。
俺はアランたちから手を離して、くるっとおっさんたちの方を向き、にこっと笑った。
ズキューーーンッ
((か、可愛い……っ!!!!))
「シア……じゃなくて、ルシアンヌ、すごいですね……」
「そ、そうね……。女として負けた気がしてならないのだけれどやるわね……」
外野がうるせえ。
そう心の中で思いながら、ファイテンの街を歩いて、目的地に向かう。だが、一番人気で大臣たちがよく来るような店に行かなければ意味がない。俺は先程心をノックアウトさせた男たちに近づいていき、乙女を発揮して告げた。
「すみません、ここで1番人気のお店で働きたいのですが、教えてもらえませんか?」
「こ、この辺で? そうだな、『アニータ』って店が1番可愛い子が集まる店だぜ。お偉いさんも出入りしてて可愛い子はすーぐ取られちまうけどな。……そういやー、可愛い子を募集してたな」
それだ。
俺は男の手を取って、ニコッと笑った。
「教えていただき、ありがとうございます」
男が俺の笑顔に撃ち抜かれてる間に、俺はセリーネたちの所へ戻って囁いた。
「よし、お前ら。潜入する店は決まった。まあ、面接は俺に任せとけ」
「頼もしいね」
「あんた、もういっそ、女になった方が色々得しそうね」
「よく言われるが、全然嬉しくねぇ」
聞き込みで聞いた『アニータ』という店の前に辿り着いた俺たちは、店のドアを開けた。カランカランっと音が鳴り、店主だろうか、毛深いおっさんが俺たちを出迎えた。
「いらっしゃい。……へぇ、美人ばかりだな。働きたいって要望か?」
「ええ、私たち、少しの間ここに滞在するので、そのための資金を稼ぎに。ここでしたら一日でかなり稼げるとか」
「へぇ? そういう素直な目的は嫌いじゃねぇぜ? ……それじゃ試しに俺を満足させてみろよ」
そう言って俺の顎を掴んでくいっとあげて顔を近づけてくる店主。
おえー、見た目を裏切らねぇっつーかなんつーか。くっせぇし、顔近ぇし、なんか息荒いし……。まあ、ここは我慢しなきゃだな、超嫌だけど。
「あら、ここで? ………恥ずかしい……あとで、2人きりで……なんてどうかしら?」
全力の恥じらいと上目遣いを使って男を誘惑する。すると、男は照れた様子で顔を逸らした。
「……んんっ、合格だな……」
「あら、嬉しいわ」
「……残り2人もやってみせろよ」
「「え゛………………」」
2人の方に目を向けると、「無理無理無理」というような目で俺を見てくる。仕方ねぇな、楽して入りたいし、助け舟出しとくか。
「恥ずかしいのよね、店主があまりにも魅力的だから」
俺がそう言うと、2人がこくこくと頷く。気分がいいのか店主は鼻の下を伸ばしながら合格サインを出してくれ、衣装部屋へと案内された。ここで好きなドレスに着替えてから店内で紹介されて、指名されたら客対応をするという流れと聞かされた俺は店主が出ていくのを確認してからアランとセリーネに、店主に対する2人の行動について指摘する。
「なんとか入れたな……お前ら、客対応の時どうすんだよ、今みたいに俺が絶対助けに入れるわけじゃ、ね…………」
つもりだった。
「わぁ! これ可愛いわね!」
【なぁ、アラン、お前これ着ろよ、似合うぜ絶対】
「絶対嫌だ。ていうか、これ僕に似合ったらクロウも似合うってことだからね?」
こいつら、服見て楽しんでやがって全然聞いてねぇ。2人、いや3人のことを見て呆れた俺は溜息をつく。
「はぁ……お前ら、ここに何しに来てんのか分かってんの? 情報収集だ、観光じゃねぇんだぞ」
「分かってるわよ。あ、これも可愛い、迷うわね」
「分かってるよ……ってこれ布少な……どうやって着るんだろ……」
「全っ然分かってねぇだろ! 今みたいに助けれねぇっつってんの!」
ったく、こんなんで大丈夫なのか?緊張感も危機感もねぇ。特にセリーネ、お前女だぞ、本当に分かってんのか? そう思いつつも、とっとと着替えて客対応の方に行かなければいけないと切り替えて俺もドレスを選ぶことにした。
「いいか、何があっても絶対笑顔忘れんな」
そう伝えてドレスに着替えて店内に入ると、酒と女を楽しむ人々で溢れており、俺たちは店主の後ろに続いて色んなテーブルを回って紹介された。俺は指名されるように笑顔を振り撒きながら、客の顔をしっかり記憶していた。その後、指名されるまでは待機部屋で待っているようにと案内された。
1番奥のテーブルがビンゴだな、ルアージュの財務大臣に、防衛大臣、おまけに女癖悪いって有名なルアージュ軍の軍曹様までいるじゃねぇか。おまけの一般兵もまあまあいるけどそこは気にしないでおこう。でも、これは期待できるな。
と思っていると、早速店主が俺たちを呼びに来た。
「嬢ちゃんたち、すげぇな、1番奥のテーブルで指名だ。大臣様だからな、失礼のないようにしろよ」
「はーい」
よっし、と心の中でガッツポーズして案内されたテーブルに行く。自己紹介を促されて俺たちはそれに従う。
「ルシアンヌです」
「あ、アレーナです……」
「……セレンよ」
何かあっても直ぐに助けに入れるように、セレンことセリーネが俺の隣になるように適当な理由をつけて席に座った。俺は酒を注ぎながら大臣たちに話を振る。
「今日飛び入りでここで働くことになったのですが、運がいいですわ、こんな素敵な方々に指名して頂けるなんて」
「ははは、こんなに可愛い子がいて指名しない方が難しいと思うがね」
「あらまぁ、大臣様ったら、お上手ですこと」
そうしてしばらくはお酒を注ぎながら、ありきたりな話などをしていた。セリーネは酒を飲まないように気をつけながら大人しく大臣やおまけの一般兵の話に相槌を打っていた。まあ、セリーネは俺と話聞き出せばいいな。
アレーナことアランは、緊張してるのかおどおどしながら女癖の悪い軍曹様の対応をしている。と思ったら、いつの間にかクロウが出てきて女口調にもせずにぐいぐいやっている。
なんかすげぇウケてるな。酔ってるからか、おどおどしてた美女が急にドSの美魔女化しても誰もつっこまねぇし、なんならドSの方にハマって変なこと言い出してんぞ。頬染めて息遣い荒くして「踏んでくれたりする?」じゃねぇよ軍曹、気持ち悪っ。軍曹はほっとこう、うん。
酒もいい感じに回ってきている大臣たちを見て、俺は本題を違和感を抱かせないように切り出す。さぁ喋ってもらうぜ、馬鹿大臣共。
「大臣様はお国のために頑張ってらっしゃるのでしょう? それに、王様は短気でありながら公正な方で、犯罪も減っているとか」
「そりゃ国がよくなるように色々してるよ。犯罪は減っていた時期もあったな、その時は陛下も公正な方だった」
「だった?」
「陛下が2年ほど前から犯罪を助長してらっしゃるからのぅ。犯罪は増え、治安は悪くなっている一方なのじゃ。怒りに触れれば死罪になる故、我らの手にも負えぬ。どうしてあんなに変わられてしまったのか……」
おかしい。へファイストス様はそんな方じゃなかったはずだ。短気であれ、怒りに任せて建物を燃やしたり、人を焦がしたりみたいな話は有名だが、死んだなんて聞いたことがない。それに、何よりも公正な方だ、犯罪を助長するなんて信じられなかった。それに、変わったのは2年前。それまでは今まで通りの陛下だったということを意味している。俺と話を聞いていたセリーネが俺と同じ疑問を口にする。
「2年前に何かあったのでしょうか……?」
「さぁな、我々も困惑しておる。だが、怖くて誰も陛下を止めることも出来ぬ」
「……いや待てよ」
防衛大臣が何か思い出したように声を上げる。
「そういえば、謁見すると必ず黒い剣を持っていらっしゃるな」
「黒い剣、でございますか?」
「ああ、そうであったな。噂じゃが、その剣を片時も離さずに持っているという話じゃよ。本当かは分からぬがな」
黒い剣、へファイストス様の変化、それによる犯罪の助長と治安の悪化……。鍵を握っているのはその剣だろう。結構いい情報が手に入ったんじゃねぇか。こんなもんでいいだろ。真面目な話は終わったからか防衛大臣様が言い寄ってき始めた、面倒くさ。言っとくけど俺は適当に流すぞ? ま、ここは、適当に切り上げて………………。
と思っていたその時、隣から小さな悲鳴が聞こえた。