エルナト
──なぜ、俺は生き返った?
──なぜ、女神は俺を……自分を殺したはずの俺を生き返らせた?
──なぜ、この姿で?
後太郎は頭を抱えるが、答えは出るはずもなかった。
水浸しの服を探ると、ずぶ濡れの証書とかなりの金が入った財布が見つかった。
そしてどういうわけか、通貨単位や文字を把握していた。
「俺は……そうだ。こいつの体の名前……多分……エルナト?」
なぜか、この体の名前も覚えていた。他のことは何も思い出せないが。
腰には剣。抜く暇もなく倒されていたのか、と後太郎は彼を少し哀れに思った。
「とりあえず、街に戻ろう……」
何かを考えるより、まず濡れた服を乾かすこと、そして少し休んで落ち着かなければ。
水を全身から滴らせながら、後太郎は街への道を歩きはじめた。
「エルナト様!その格好はどうしたので?」
破壊され、鎖と縄で補強された門の前。門番が心配そうに後太郎──が乗り移ったエルナトに尋ねる。先ほど殺した門番とは別人、いや別牛か。彼の口ぶりから察するに、この牛は高い身分にいるようだ。
「いや、足を滑らせて湖に落ちてしまってな。服を乾かしていたがあいにくの湿気、乾かぬ。それでこうして帰ってきたわけだ」
「そうだったのですね、風邪をひく前に早くお着替えを。ささ、どうぞ」
門番は疑う様子も見せずうやうやしく一礼し、彼を通した。
「予想外にうまく行ったが……さて、こいつの家はどこだろうな?」
後太郎があてもなく歩いていると、背後から幼い声がした。
「パパ!」と。




