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落
──駄目だった。
ごぽごぽと耳元で水音が聞こえる。
──何一つ為せなかった。
もう開かない瞼に、光を感じる。
──俺は、何も知らなかった。
水が空いたままの口に流れ込む。
──もしもう一度チャンスがあるなら……俺は……
頭の中に声が響く。どこかで聞いたような声。
[あなたの落としたものはなんですか?牛の亡骸?それともあなたの命?]
──落としたのは……それだけじゃない……きっと、もっと大事な……
[まだ見つけられないのですね。見つけられるまで、そして選べるまで、あなたには両方ともあげましょう。あなたの命と、牛の体と──]
視界が暗くなる。耳元の水音が遠くなる。そしてそのまま──深い、深い底に……
目が覚めると、後太郎は湖のほとりにいた。
──俺は……死んだはずでは?
頭に手をやると、硬質な感触が手に伝わる。
──まさか。
彼の脳裏に蘇るのは、最後に聞こえた声。
「俺の命と……」
覗き込んだ水面には、牛の顔が映っていた。
「牛の、体……」
彼は、自分が最初に殺したはずのミノタウロスになっていた。




