ついに婚約破棄されました。
騒がしくなった会場は一人の青年の大きな声によって一瞬にして静かになった。
「パーティーにおこしの皆様!私アベル・ルキアスはここにいる皆様にお知らせしたいことがあります!」
王と王妃、そして来賓の隣国の王族貴族たち、このホールにいるすべての者の視線がいきなり大声を出し、お知らせがあると言うアベルに集まった。
「私アベル・ルキアスはここにいるローズ公爵家令嬢ユリア・ローズとの婚約を破棄する!」
それは、明らかにユリアにむけた言葉であった。しかし、アベルの言葉は止まらずさらに衝撃的な言葉を発した。
「そして、ここにいるシャルロット・ルミス男爵令嬢と婚約を結ぶ!」
アベルは隣に立つシャルロットを抱き寄せながら高々と宣言した。そして、アベルに気づかれないように勝ち誇ったような笑みを浮かべるシャルロットの周りには、宰相子息ヘンリー、近衛隊長子息アレン、侯爵家子息ケビン、ケビンの弟ボブが取り巻きのように立っていた。
アベルの婚約破棄宣言、さらに男爵令嬢との婚約宣言に男爵家、子爵家、伯爵家、侯爵家、公爵家ともども大仰天である。公爵家子息が仮にも公爵家令嬢との婚約を破棄したのだ。しかも、このような隣国の王族貴族もいる公の場で堂々と。みなの心配はアベル…いやルキアス公爵にむいていた。両家とも公爵家だが、王族の血を引くローズ公爵家の方が明らかに格上だからだ。まぁ、ユリアは正真正銘王の血を引く直系の王女なのだが、みなはそれを知らないためこのように考えた。
ルキアス公爵は怒りで震えていた。ばか息子の言葉を聞いた瞬間この世の終わりだと思ったのだ。自分が王にどうしても…!と頼み込んでこの国でただ一人の王の子供、ユリア王女との婚約にこぎつけたのに。自分の息子を中継ぎだとしても王として、これからの王族に自分の血を引いてもらえば。と思っていたのに。ユリア王女が生まれてから15年間ずっと考え続けた末、やっとのことで導き出した答えを王にしようとしていた息子に台無しにされたのだ。しかも王女を溺愛している王と王妃の前で。絶対に罰が与えられるに違いない、とこれからの自分に与えられる処分を考えてぞっとするのであった。
しかし、当の本人ユリアは驚いた様子もなく、ただ淡々としていた。ユリアとしては好きでもない相手と結婚するのは少し嫌だったのでちょうどいい!と思っていたのだ。まぁそれよりも、シャルロット・ルミス男爵令嬢?それだれ?の方がユリアの頭の中を占めていたのだ。
「婚約破棄ですか?えぇ、よろしいですよ?」
ユリアの言葉にアベルをはじめ、その場にいた全員がぽかーんとなったであろう。婚約者からの婚約破棄宣言にあっさりと応じたのだ。
「わ、わかってくれてなによりだ…。し、しかし!私にはまだ話がある!お前!私の愛しのシャルをいじめたそうじゃないか!」
もうこのときには周りの貴族たちは哀れな目でアベルとシャルロット(と取り巻き)たち6人を見ていた。あのユリア様を婚約破棄したあげく、お前よばわり。しかもいじめたなんぞありえん!と思いながら。前に学園のほとんどがユリア信者だと言ったが、貴族のほとんどがユリア信者なのである。