本編:1 開拓村アーキット
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……『秩序のクリスタルの勇者』によって『混沌のクリスタル』が倒されてから100年。
その間に世界はつかの間の安寧を謳歌し、繁栄していた。
100年前の戦いの直後に辺境の土地に新しく作られた村、アーキットで私は生まれた。
両親からはアルシャって呼ばれている。 正式な名前はアルシャーミリア。
父方の曾祖母と母方の曾祖母の名前を一つにしたものらしい。
まあ、由来は割りとどうでもいい。 私にとっては「前」の名前に割りと近い名前で呼ばれる幸運のほうが需要だから。
そう、私はかつての『混沌のクリスタル』の化身でありクリスタルそのものだった存在、アーシャ。
あの時の最後に呟いた願いの通り、私は気付いたら人間に生まれ変わっていた。 今の私は『混沌のクリスタル』ではない。
それに気付いたのは今の両親の元にうまれて3歳ぐらいに成長した頃。
物心がつくとほぼ同時に「前」の記憶を取り戻した私は、願いが叶えられたことの喜びの余りはしゃいで村中を駆け回ったので、そんな事露ほどにも知る由のない両親は私が気が違ったのかと心配したらしい。
一体何故こうなったのかは判らない。
『混沌のクリスタル』は倒されても何度でも復活するし、前の私は「人間の姿の形状」に生まれはしたけれど、今の私は完全な人間だ。 この体は水晶で出来ては居ない。
一体誰がこんな奇跡を起こしてくれたんだろう? 『秩序のクリスタル』だろうか。
そうだとしたら……私が「前」で世界を滅ぼしたくないと願って、倒されることを望んだから、最後の望みも叶えて『混沌のクリスタル』ではなく人間に生まれ変われるようにあっちが計らってくれたのだろうか?
村の小さな学校の教室で自分の席に座って物思いにふけっていると、不意に名前を呼ばれた。
「アルシャーミリア、前に来て躯能計測器をみんなに配ってください」
そう、こんな風に私の長い名前を略さず呼ぶのは、学校の律儀な教師ぐらいのものだ。
現在の私は辺境の村に住む11歳の少女、アルシャであり、ただの人間。 『混沌のクリスタル』ではない。 大事なことなので繰り返しました。
私は言われたとおりに席を立って教壇のところに行き、躯能計測器を配る手伝いをする。
そう多くも無い生徒達に配り終えると、教師は説明を始める。
「えー、この躯能計測器は、私達人間に備わっている基本的な能力を測って、表示するものです。
体力、魔力、気力、それと耐久、筋力、敏捷、器用、知力の八つの項目のうち調べたいものにダイヤルと合わせて、グリップを握りこむと針が現在の数値を表示します。 あくまで現在の状態ですから、調子のいいときと悪いときで多少は増減し……」
100年前に比べて世界は随分と進歩していた。
「前」の私達の頃にはもっと大掛かりな装置で、手足に針金のようなものを巻きつけた上で、装置にセットされた反応溶液の色の変化でだいたいの数値を見積もっていたから、こんな携帯サイズにまで小型化したのは年月の重みを感じる。
しかも計測数値はかなりファジーな加減だから、そこまではっきりとした指標にならない。
もの凄く体力のない貧弱な一般人が計測したりすると、 死んでいると計測されることすらあった。
つまり、クロトがよく言っていた「最後の体力が残っていれば死にはしない」というのは、数値上では1という計測にはなってるけど、実はまだ結構体力が残っている、ということになるのだ。
「せんせー、でもこれ古い奴じゃん。 数字が回転する奴じゃないし、3桁までしか計測できない」
クラスメイトの一人が不平を言う。
……そう、都市部ではこの計測器はさらに進歩しているのだ。
数字の目盛りが回転し、6桁まで計測する事ができる、もっと高性能なのが存在すると、「都会」に行ったことのある、あるいは都会から移住してきた子らから聞いている。
私はまだそれを見た事がない。 両親はこの村を建設した開拓者の子だし、私もこの村で生まれ育ったから、世界が100年前に比べてどう変わったのか、まだ全てを知らない。
他にも聞くところによると、大きな都市と都市は「列車」なる大きな乗り物で行き来し、村の役場の何倍もある大きな……「10階建て」とか「20階建て」とかいう想像もつかない大きさの建物には、「昇降籠なる謎の仕掛けが存在するらしい。
「学校では身体測定に使う程度なので、それでいいんです。 あなた達の年齢で数値が1000に届くことはありませんから」
教師が無慈悲というよりは淡々と言い放つ。 一部の生徒からは悲嘆と不満の声が上がった。
「アルシェは体力どのくらいだった? 私は162」
隣の席の子が話しかけてくる。 私は今から計るところ、と返答して自分の測定器を操作する。
まず、ダイヤルを体力に合わせてる。 次に、計測器についているグリップを握ればいい。
周りでは既にクラスメイトたちが自分たちの計測結果を教えあって居た。
「俺は281だったなー」
「勝った! 306!」
「ま…、魔力だったら308だし! 負けてねーし!」
「先生、気力が皆20とか30とかまでしか行かないのは何でなの?」
「気力は他の項目よりもそのときの精神や気分で大きく増減します。 何か楽しいことがあった時、興奮したときなどはより大きく増える一方、上限はそれほど個人差がありません。
皆さんの気力の数字は、普段はだいたいそのくらいという事です」
教師のその説明を受けて、何人かが気力を計測しなおしたり、何度も計測を繰り返したりする。
「ほんとだ、さっきより気力が増えてる。 体力高くでやったーって思ったからか」
「俺のは減ってる……」
そういうもの、と既に知っている私には一喜一憂するクラスメイトたちの様子は不思議でもあり、微笑ましくもある光景だった。
さて、私も早く計測してしまわないと。
そう思って躯能計測器のグリップを握りこんだ途端、バギン!という凄まじい音がして針が表示の最大目盛りを振り切って、約350度くらい……ほぼ一周してストップしグリップを放しても戻らなくなる。
そして、教室中に響き渡った突然の異音にクラスメイトたちと教師が一斉に私の方に注目する。
「あー……! せんせー! アルシャが計測器壊しましたー!」
……違う。 私壊してない。 意図的に壊してはいない。
私の弁明は大騒ぎになったクラスメイトの囃し立てる声にかき消される。
聞いて。 私壊そうとしてないから。 だってこれ、最新型じゃないから、古い奴だから壊れたんでしょ?
そうに違いないもの。 決して私の体力を測定しようとしたら、なぜか3桁の最大値超えて計測されて、針が振り切ったとかじゃないから、多分。
先生も言ってたし。 私達の年齢で1000を越えることはまず無いんだから。
「前」の私がああだったからって、クロトたちの奥義を何度も受けても平然とできて、それでも最終的には倒されるようには損傷管理を計算して、それでなんとか上手く行って倒された程度には強かったからと言って、今はただの人間の女の子なんだから。
だから私の体力がバケモノ並になっているはずがない。
ほら、新型は6桁なんでしょ? 新型だったら壊れなかったはず。 色々新型なんだし。
全てはこの計測器が古いせい。 計測器が元々壊れかかってたから、こうなったの。 だから皆信じて。
恐ろしいものを見るような目で見ないで。
「……仕方ありませんね。 アルシャーミリア、隣の人から計測器を借りて、計りなおしてください」
先生は淡々とした態度でそう告げ、私は隣から借りてもう一度計ることにしてみた。
今度こそ多分大丈夫、計測器は故障してないはずだ。 隣の席の子は既にちゃんと計ったんだもの。
だから、さっきみたいな異常は起こらない。 起こらないはずだ。
……皆がじっと私に注目する。
また体力が目盛りを振り切ったらどうしよう。 ……今度は、魔力にしてみよう。
そう考えて、私は魔力にダイヤルを合わせ、グリップを握った。
再びバギン!という凄まじい音がして針が表示の最大目盛りを振り切った。
……隣の席の子がそっと私から距離を取る。
私はどうしていいか判らず、先生の方を見た。 先生も困惑の表情で首を左右に振る。
一体何故こうなったか、わからない。
放課後、私は珍しく一人で学校から家までの道を歩いていた。
馬車の轍の残る土の道は、いつもだったらクラスメイト数人とはしゃぎながら駆けて行く帰り道。
あの後、なんだか気まずくなってクラスメイトの誰とも言葉を交わさず、私の方から距離を置いてしまった。
先生には謝り倒した。 結局、全部の項目で針が振り切って故障。 躯能計測器を幾つもダメにしてしまった。
旧式の型落ちとはいえ、こんな辺境の小さな村の学校で教材が壊れるのは地味に痛い問題だろう。
来年身体測定する下級生たちが困るに違いない。
家の少し前のT字路で、お隣のおじさんと村の自警団の人が何か難しそうな顔で会話をしている側を通り過ぎる。
「最近はまた幻魔獣が出没するように……」
「やっぱり『混沌のクリスタル』が復活しているという噂は……」
……「前」の戦いから100年。 やっぱり、私が人間に生まれ変わったのとは別個に『混沌のクリスタル』もどこかで生まれ変わっているんだろう。
そしてそれは、『秩序のクリスタルの勇者』も生まれているという事になる。
きっと、この世界のどこかに、クロトたちと同じような存在が。 『秩序のクリスタル』に導かれた者たちが居る。
それなら……それなら、「前」の最後で願ったことが、本当に叶ったのなら、今度こそ私は、彼らの本当の仲間に入りたい。
今度は、「倒されることを願う」のではなく、「共に『混沌のクリスタル』を倒す側」として加わる。
もう一度、やり直すんだ。
彼らと旅した結果、世界を滅ぼしたくないと願った私が、世界を守るために倒されて、死んで、そこで終わりだなんて。
守られた世界には私は居ないだなんて、悲しすぎる。
『秩序のクリスタル』もそう思ってくれたから、あなたの力で私を人間に生まれ変わらせたんでしょう? きっとそうに違いないわ。
ならきっと、計測器を壊す程のこの力はそのためにある。
私は心から強くそう信じ、両手の平をじっと見つめて、握る。
そして「今」の両親の待つ家へと駆け出していった。
フォン
畑を耕したり
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子犬を拾ったり
発展させたり
研究したり
爆発したり!
仲良く……なっちゃったり?
君だけの土地で、君だけの農場を作ろう!
ファームプロジェクト・パイオニアストーリー
オンライン共同経営モード実装、ついに配信開始!
デデン ピロリーン
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