十月十七日
このところ毎日のように放課後文化祭の準備にみんな勤しんでいるのだが、お化け屋敷のデザインのアイディアが滞り制作は遅れをとっていた。
「やばいなー。これで間に合うかな」
学級委員が困った顔で心配している。そうだ、どうせ作るならクラスのみんなで納得した出し物にしたい。なんとかならないかな。そう思いながら段ボールのごみくずを焼却炉に運んでいく。
「うわ!」
両手に抱えていたかさばった段ボールがボロボロ床に落ちていく。はあ。一旦全部の段ボールを床に置き揃えなおしていた時だった。
「創太ぁ~。まだそっちのクラスは準備終わってないの?」
カバンを背負った優香が腕を組んで僕を見下ろしていた。
「そうなんだよ」
「お化け屋敷って凝ったものにするからー。私のクラスみたいに喫茶店でもやってりゃいいのに」
「まあ、そうかもしれないけどせっかくの文化祭だろ? いいものにしたいじゃん。これから帰るのか?」
「私も体育館の会場の装飾の最終チェックの打合せ。私が頼まれて考えたからきてほしいって」
「そうなんだ」
「ゴミ運び大変そうね」
「まだ教室には山ほどあるよ」
「ふーん、手伝ってあげる。ほらかして」
そう言うと優香は半分の段ボールのくずを持ってくれた。焼却炉に段ボールを投げ入れた後、僕達は教室に向かう。
「体育館の装飾チラッと見たけどあれ本当に優香のアイディア?」
「そうだよー」
「美麗でよくできてるなー」
「へへん」
「やっぱり優香は美術の神様だな、と形容しておくことにするよ」
「もっと褒めてもいいんだよー」
そんなやりとりをしつつ教室に入る。
「おい新井。この段ボールをマジックで塗ったところカッターでかたどって。それとそこにボンドもあるから接着もよろしく」
「うん、わかった」
男子生徒の注文を受けると僕は早速作業に取り掛かる。
「あれ? カッターがないな。あれ? どこだ」
「はあ」
優香は僕が困っていると背負っているカバンを床に置いて文化祭用の準備で持っていたと思われる細いカッターを差し出してくれた。
「周りを見ればここにも置いてあるじゃない。ほら」
「あ、ありがとう」
「よくさがしなよ、ノロマ」
「ったく、一言余計だよ」
僕はカッターを受け取ると慎重に段ボールにマジックで書かれた線をなぞって切っていく。
「よしできた。あ、ボンドボンド」
「ほら」
優香はタイミングよくボンドを僕に差し出してくれる。
「ありがとう」
ボンドを受け取る。
「他になにか必要なものある?」
すると、僕はクラスの二人の女子がそんな僕達を見て話をしているのに気づいた。
「ねえ、優香って隣のクラスでしょ? 創太と仲いいのかな」
「なんか親身になってるよね」
「優香って創太に優しいんだね」
僕はその話を聞いて顔が紅潮した。優香の顔を見ると彼女も顔を紅潮させている。は、恥ずかしい!
「ねー、もしかしたら優香さんって創太くんの事好きなのかな」
「そうだよ。きっとそうなんじゃないの? ニヒヒ、微笑ましい~」
僕は顔の紅潮が限界に達した。クラスでみんなが作業しているのにこんなこといわれるなんて処刑すぎる……。
「そんなことないんだからあああああああああああああ!!」
「!?」
優香は教室中、いやもしかしたら窓が開いている教室から校庭にまで響き渡るような大声で叫びだした。そのあまりの大声にみんなが驚きクラスの真ん中にいる優香を見る。
「あ……」
優香は叫んだことが逆効果になったことに気づいて黙り込んだらしい。顔を全部真っ赤に染めている。
「そんな大声で否定するところがまた、ねえ?」
「そうだよねー、はは」
「……」
優香は恥ずかしさのあまり何も言えないようだ。あはは……。
「優香さん、ここは一組の作業だから二組の人は邪魔しないでもらえるかな……」
学級委員が優香を注意する。
「ハ。ハイー!」
優香はそう言うとスタコラサッサと教室を飛び出した。おい! このクラスの空気どうしてくれるんだよー!
気まずい雰囲気が流れたまま作業を続け、この日で何とか八割作業が完成した。残りの作業は期日までに間に合いそうだ。




