もみじと幸せ
「山上さん、生まれましたよ。可愛い女の子です。おめでとうございます! 」
看護婦が、私の元にそう言いながら、やってくる。
私は、嬉しさのあまり、浮き足立ってしまい、お礼もそこそこに個室に入ると、そこには満面の笑顔を浮かべた妻とその腕に抱かれた赤ちゃんがいた。
私は何をすればいいのか分からなくなってしまった。
赤ちゃんは触れると壊してしまいそうで、妻に抱いてあげてといわれるまで、何もできなかった。
私はおそるおそる、生まれたばかりの我が子の小さな手に触れる。
温かい。
なんと表現すればいいのだろう。
この温かさが、私に自分がまるで親になったことを教えてくれるようだった。
この温かさこそが、私がこの子を守らないといけないと教えてくれるようだった。
他人の子を見ても、可愛いなくらいしか思わなかったが、こう自分の子だと思うと胸に込み上げてくるものがある事を初めて知った。
あれほど、親バカになるまいと誓った私だが、今、この瞬間に全面的に撤回しよう。
これはしょうがない。なんでこんなに可愛いのだろうか。
本当に我が子なのだろうか。
どこかで天使と間違ってしまったのではないだろうか。
いや、違う。
私の子は天使だったのだ。
そうに違いない。
うん、そう決めた。
誰にもこれは否定させない。
たとえ全世界を敵に回す事になろうともだ。
一生嫁にはやらん。
そんな事を妻に話すとばかねと笑われてしまった。
そんなに笑わなくていいじゃないか。
本当にそう思ったのに、そんな風に言わなくていいじゃないかと、拗ねて見せたら、「あらあら、あなたのお父さんは赤ちゃんみたいでちゅね」と言われてしまった。
みんな笑っていた。
ふと、窓の外を見ると、紅葉の木が風で揺れていた。
まるで祝福するかのように葉が揺れていた。