081話 ゲームの終焉*
爆煙がゆっくりと晴れていく。
アベルは短聖剣を杖代わりにして、辛うじて立っていた。息は乱れ、全身から血が滴る。視界も霞み始めている。
メイは満足そうに拍手をした。
「素晴らしいわ。そこまでボロボロになっても、まだ立てるなんて。」
彼女は周囲を見回す。
倒れたヒロインたち。
崩れた石床。
傷だらけの勇者。
「そろそろ終幕ね。」
その言葉とともに、最後まで動かなかった二つの影が前へ出た。
レオニス。
そして。
セレスティア。
アベルの瞳が揺れる。
(……まさか。)
レオニスが静かに右手を差し出す。
セレスティアも何も言わず、左手をそれに重ねた。
二人の足元へ巨大な魔法陣が展開される。
金色と白銀。二色の魔力が渦を巻きながら一つへ溶け合っていく。
その光景を見た瞬間。
アベルの心臓が止まりそうになった。
(あれは……。)
忘れるはずがない。
ゲーム終盤。
魔王との最終決戦。
勇者とヒロイン、
互いを誰よりも信じ、
深い愛情で結ばれた二人だけが発動できる、
最後の切り札。
《究極連携魔法》
ゲームでは、文字通りの最後の手段として、
どれほど魔王が強くても、
この一撃だけは必ず魔王へ届き、
世界を救う。
プレイヤーなら誰もが知る、物語の象徴だった。
(どうして……。)
アベルはセレスティアを見つめる。
幻だ。
そう理解している。
理解しているはずなのに
目の前の光景は、あまりにも自然だった。
セレスティアは穏やかな眼差しでレオニスを見つめている。レオニスもまた、彼女へ静かに頷いた。
二人の呼吸は完全に一致していた。
寸分の狂いもなく。
ゲームで何度も見た。
何度も憧れた。
あの場面、そのものだった。
(……そうか。)
アベルは力なく笑う。
(俺じゃ、駄目だったんだ。)
(最初から。)
(最後まで。)
(セレスティアが選ぶのは、レオニスなんだ。)
メイは、その様子を見て口元を歪めた。
勇者の胸中までは知らない。
ゲームの設定など知る由もない。
だが、目の前の勇者が確実に心を折られつつあることだけは分かった。
「うふふ。その顔……とっても素敵♡」
魔法陣が完成へ近付く。
塔全体が眩い光に包まれ始めた。
アベルは短聖剣を握り締める。
震える手に、もう力はほとんど残っていない。
それでも……
勇者は最後まで、その場に立ち続けていた。




